現役時代、絶対に妥協しなかった数字

私は現役時代、打率を気にしたことはなかった。給料を上げたければ、全試合に出場して、その適材適所で与えられた仕事をきちんとやって、それでチームが勝てばいいと思っていた。だから、まず全試合に出るために必要な体作り。それは絶対に妥協しなかった。

3割を打ったシーズンもあるが、そのうちの何度かはギリギリ3割という数字だった。逆に、わずかに足りず3割を切ったシーズンもある。そういう時というのは、シーズン終盤、試合に出るのが嫌になってくる。とても疲れるのだ。とくに優勝が決まった後の消化試合になると、「3割なんてどうでもいいわ」と思いながら打席に立っていた。

そもそもギリギリ3割と2割9分台というのは、私も両方経験したことがあるが、その足りないヒット数なんて、計算してみたら5本もない。年間500打席以上立って、その中でのたかが5本。はっきり言って、どうでもいいようなヒットだってある。

逆に、完璧に打った打球が野手の正面に飛ぶこともある。そう考えると、そこでの打率の差は自分の中ではあまり気にならなかった。

【侍JAPAN新監督】現役時代、打率を気にしたことのなかった井端弘和が絶対に妥協しなかった数字_3
現役時代の井端弘和氏 写真/AP/アフロ
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それよりも私は毎年、「全試合、全イニングに出る」というのが目標だった。そしたら、ずっとフルイニング出場を続けてきて、最終戦に打率3割が懸かるということもあった。監督からは試合前、「どうする?」と聞かれた。フルイニングを取るか、打率3割を取るか、自分で選べという意味だ。私は「両方です」と言って試合に出場した。

全試合フルイニング出場には、プロとして強いこだわりがあった。

シーズンの中で、もし私が出ていない試合、出ていないイニングがあれば、言うまでもないが代わりに誰か別の選手がショートを守ることになる。私は、選手の年棒というのは、その年の総枠があって、それが各ポジションに分配されているという考え方をしている。その中からショートに割り当てられる額が1億円だとしたら、私以外の誰もショートで出場していなければ、その1億円を私が全部もらう資格があることになる。

まあ現実はそう単純なものではないが、球団に対しては、契約更改の時に、そういう基準で話をさせてもらっていた。

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『野球観 ~勝負をわける頭脳と感性~』(日本文芸社)
井端弘和
【侍JAPAN新監督】現役時代、打率を気にしたことのなかった井端弘和が絶対に妥協しなかった数字_4
2022年6月2日
1760円
192ページ
ISBN:978-4-537-21994-4
東京五輪で金メダルを獲得した野球日本代表“侍ジャパン”の内野守備・走塁コーチ、井端弘和。現役時代は荒木雅博と「アライバコンビ」を組み、現役引退後は巨人・高橋由伸監督の下でコーチを経験。現在は社会人野球の指導を行うなど「育成手腕」が高く評価されている。そんな野球界が誇る“名参謀”が、“コーチ”の重要性、存在意義について語る一冊。
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