マイナンバーカードの情報漏れ、政府は責任を負わない⁉

マイナンバーカードによる情報流出をめぐって、大きな議論を呼んだのは、デジタル庁の「免責」問題でした。

デジタル庁の「マイナポータル」利用規約を見ると、2022年3月時点では第23条に「免責事項」として、デジタル庁はマイナポータルの利用に当たり、「利用者又は他の第三者が被った損害について一切の責任を負わない」とされていたのです。

このことを問われた河野大臣が、「マイナポータルの利用規約は、民間のインターネットサービスの利用規約と比べて、極めて一般的なもので特殊な要素はない」と言い放ったために、「民間じゃなく、政府のサービスなのに、あまりに無責任だ」とクレームの嵐が起こりました。

これにあわてたデジタル庁は、今年になってこっそりと免責事項に「デジタル庁の故意又は重過失によるものである場合を除き」という文言を付け加えたのです。

マイナンバーは、流出したり悪用されたり、といったトラブルに関しては、100%、国が責任を持ってくれる制度になっています。これはマイナンバーが、政府が強制的に全国民に付けた番号であること、「法令で定められた利用できる主体」が国や自治体であることによるものです。

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マイナンバーカードでも、裏面に記されたマイナンバーについては、国が責任を負います。問題はICチップで入れる個人情報です。こちらは「民間も含めて広く利用が可能」ですから、「国は必ずしも全責任を持つ必要はない」ということになっているのです。

しかし、誤登録などさまざまなトラブルが発覚するなか、いちどは「一切免責」で押し通そうとした政府の姿勢は、国民の信頼を減じるものだったことは確かでしょう。

「デジタル庁の故意又は重過失によるものである場合を除き」が加えられたのは、一歩前進とはいえますが、これでも責任の所在がはっきりしないと、プライバシー問題に詳しい東京弁護士会の水永誠二弁護士は指摘します。

「故意とは、わざとということ。重過失というのも、単なる過失ではなく著しく注意が欠如した過失ということで故意に近く、よほどのことでないと責任を問えません。しかも、どこまでが故意でどこまでが重過失なのかという判断は、誰がするのでしょうか」

デジタル化社会において、「絶対安全」はない以上、不測のトラブルに備え、責任の所在は明確に示してもらいたいものです。


文/荻原博子 写真/shutterstock

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マイナンバーカードに、いったい何が起きているのか?
7000件以上の誤登録、医療現場でのシステム障害など、トラブル続きの「マイナ保険証」。さらに2024年秋には、現行の健康保険証は使えなくなる――。見切り発車、その場しのぎの続く政府の対応への不信感もつのる。このままの状態でマイナンバーカードの「拡充」が進めば、情報流出のリスク、情報弱者切り捨てなどの問題も増大するだろう。政府を挙げて暴走するDX政策の罠を、利用者の目線でわかりやすく解き明かす。 
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