“木原隠し”は賢明な判断か
小渕氏には先行きへの問題もある。
「選挙そのものの難しい調整などを、小渕氏にやれるのか。それに2014年に政治資金問題で秘書が逮捕され経産相を辞任したが、その時に地元関係者が証拠隠滅のために電動ドリルでパソコンのハードディスクに穴を開け、『ドリル優子』との悪名がついた。小渕氏はあの事件の説明責任をいまだに果たしていない。小渕起用でそれを求められるリスクが生じるのではないか」(自民党関東地区県連幹事長)
ちなみに、小渕氏に選対委員長を明け渡した森山裕氏は党総務会長に。こちらは新顔というよりは横滑りで、トーンとしてはやはり「内向き人事」だろう。
「今回の自公のゴタゴタで、間に入っておさめたのが森山氏。岸田首相の信頼も厚い。しかも、森山氏は反主流派の菅(義偉)前首相や二階俊博元幹事長にも近い。岸田首相にとっては党内基盤を安定させるためには必要な存在。だから、党のまとめ役の総務会長にした」(前出・岸田派幹部)
もう一つの目玉、上川氏を抜擢した動機も、その内実は乏しい。
「上川抜擢の理由は3つ。まず、じつは林芳正外相と岸田首相がしっくり行ってない。林氏は古賀誠前宏池会長に近く、古賀氏は『安全保障や憲法改正問題など、首相の施策は本来の宏池会らしくない』と批判し、岸田首相と距離がある。そこで林氏に代えて同じ岸田派内で関係の良好な上川氏を起用した。
2つ目は、女性閣僚が少ないという批判は海外やG7で言われているので、上川氏を外交舞台に露出させて海外の批判をかわしたい。3つ目は、岸田首相は外交は自分がやるという強い自負があるから、外相はただのお膳立てで誰でもよかった」(岸田派国会議員)
最後に官邸の最側近とされる木原誠二官房副長官の交替人事に触れておきたい。党内の支持基盤を固め、バランスを取ることを主眼にしただけの今回の人事にあって、一見、この交替だけが賢明な人事のように見える。
木原副長官をめぐっては「週刊文春」とのバトルが続いている。木原氏の現在の妻が以前結婚していた夫の死亡事件に関わっていると、何度もスキャンダルを報じた文春に対して、木原副長官は事実無根、人権侵害と徹底抗戦中だ。その渦中には死亡した男性の遺族や再捜査に携わった元刑事なども会見した。そのため、文春サイドも長期戦を構えているとされる。
前出のベテラン自民議員が言う。
「このまま木原氏と文春がやり合っているかぎり世間の関心は続くわけで、少なからず岸田政権に影響する。何と言っても木原氏は官邸の中枢で岸田首相を支える存在だ。岸田首相はこれまでも旧統一教会絡みの閣僚や秘書官の長男の処遇などが後手に回り、危機管理能力がダメというレッテルが貼られてきた。今回の人事、皮肉な言い方だが、誰をどこに新しく就けたというのではなく、木原氏を切ったというのが唯一と言っていい、懸命な危機管理の人事だったと言えるかもしれない」