カラダを売ることなんて何とも思わない

日が傾きかけたころ、窓の外から「ワン」と吠える愛犬の声がした。愛犬は、インタビューの邪魔になるのではとの未華子の計らいでベランダに出してくれていた。

どんよりとした鉛色に空は広く覆われている。ベランダに出て、愛犬の様子をうかがうついでにシトシトと降り続く冷たい小雨を確認すると、「今日は出勤できないな」と未華子がつぶやいた。路上に立たないとなると当然、今日の実入りはない。

── やっぱり晴れの日しか立たないんだ。

「雨の日は基本、立たないですね」

── 路上売春って、天気に左右されての綱渡りなわけね。でも、立てば何とかなるって頭があるから気軽に闇金で借りることもできる、と。

「そうなんですよ。ぶっちゃけ数千円でも持ってれば1週間とか生きられるじゃないですか」

未華子の自宅マンションにて(高木氏提供)
未華子の自宅マンションにて(高木氏提供)

── 公園は、いまコンスタントに月いくらぐらい稼げるの?

「50(万円)くらいは余裕で稼げます。だって、1日5万を10日やればいいだけじゃないですか」

── でも、若い子たちが大久保病院側に来る去年の夏前まではもっと稼げたわけだよね。

「まあそうですね。業界自体が暇だとはみんな言いますね。でも、いくら細くてサービス良くて愛嬌が良くても暇な子もいますし。逆に見た目微妙でも公園だと売れる子もいるんですよ。私も30歳を過ぎたあたりから稼ぎは少し減りましたけど、ぶっちゃけ容姿は関係ないですね」

── 公園で売れるコツがある。

「もう愛嬌だけですよ。前にも言いましたけど、だから私は自分から声かけるんです。『どこ行くの?』ってフランクな感じから入って、『暇だったら遊んでよ』って」

カラダを売ることはなんとも思わない──ホスト、インカジ、闇金、妊娠詐欺にまで手を出した32歳女性が、新宿・歌舞伎町で路上売春をはじめたワケ「公園で売れるコツは愛嬌だけ」_4
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── でも、リスク高いよね、自分から声かけるの。

「まあ、捕まるときは、自分から声かけなくても捕まりますからね」

── で、カネが入ったらインカジ行くか、ホストに行くか。

「そんな感じです」

── 生活レベルを下げようと思わない?

「思わないです。なんならいまがいちばん下げてますね。これがいちばん最低です、私の。いちど一般職で働く同世代より稼げることを知ったら、もう無理ですね」

── じゃあ、もうカラダ売ることなんて何とも思わない。

「はい。何とも思わないです」

文/高木瑞穂

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『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』
高木瑞穂
2023年7月26日
1,760円
256ページ
ISBN:978-4865372601
ここ最近、新宿歌舞伎町のハイジア・大久保公園外周、通称「交縁」(こうえん)には、若い日本人女性の立ちんぼが急増している。その様子が動画サイトにアップされ、多くのギャラリーが集まり、現地でトラブルが起きるなど、ちょっとした社会現象にもなっている。
彼女たちはなぜ路上に立つのか。他に選択肢はなかったのか。SNS売春が全盛のこの時代に、わざわざ路上で客を引く以上、そこには彼女たちなりの事情が存在するに違いない。
「まだ死ねないからここにいるの」
一人の立ちんぼが力なく笑った。
本書では、ベストセラーノンフィクション『売春島』の著者・高木瑞穂が、「交縁」の立ちんぼに約1年の密着取材を敢行。路上売春の“現在地”をあぶり出すとともに、彼女たちそれぞれの「事情」と「深い闇」を追った――。
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