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2018年のドラマが、パンデミック下で人気再燃

2020年の「愛の不時着ブーム」以来、日本の人たちによく聞かれた。
「次は何を見ればいい? 何かオススメがあれば教えてほしい」

『椿の花咲く頃』や『サイコだけど大丈夫』など、当時Netflixで配信されていたドラマなどを薦めつつ、ネタ切れになると韓国人の友人たちに聞いた。その中で何度も出てきたのが『私のおじさん』(邦題『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』)だった。

2018年3月〜5月にtvNで放映されたドラマであり、話題作というのには時間が経ち過ぎている。「でも、あれは本当に韓国社会をリアルに描いていると思う。私は、好きだな」

「私は……」と友人の一人が言ったのは、このドラマは2018年の放映当時に批判も多かったからだろう。

当時の韓国は#MeToo運動の真っ只中にあり、大物政治家や映画・演劇界の重鎮たちの醜態が次々に暴かれていた。それもあってか、このドラマは放映開始前から「若い女性と既婚男性の恋愛もの」という誤ったイメージが先行してしまった。

予想外の逆風の中で初回視聴率は3・9%と低調なスタート、監督は「とにかく作品を見てくれ」の一点張りだったが、今にしてみれば彼の自信は当然だとわかる。そして実際に作品の全貌が見え始めた頃から、視聴率も盛り返していったという経緯がある。

『私のおじさん』というタイトルが醸し出すイメージに対する反感が大きかった。ところがドラマが最終回に近づくと『人生ドラマ』として推す声が大きくなっていった。
(2019年1月4日付、『文化日報』電子版)

主演は国民的人気歌手IU、おじさん役にはイ・ソンギュン。映画『パラサイト 半地下の家族』での金持ち一家の父親役を記憶している人もいるだろう。

逆転した評価は最終的に、伝統ある百想芸術大賞でテレビ部門の作品賞・脚本賞ダブル受賞となったのだが、ただ初動のダメージは大きかったようだ。IUファンの若者層の視聴率も低調で、イ・ソンギュンなどもインタビューで、放映初期の苦労を語っていた。

坂本龍一が絶賛した韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』 40代アジョシ(おじさん)たちの成長物語とソウルの南北格差_1
『パラサイト』での演技も評判となったイ・ソンギュン
Lee Sun-Kyun'Project Silence' photocall, 76th Cannes Film Festival, France - 22 May 2023
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そんなドラマがあらためて注目されたのは2020年6月、Netflixでの配信が始まってからだった。折しも新型コロナのパンデミック下、全世界でロックダウンや厳しい行動制限がとられていた。いわゆる「巣ごもり」を余儀なくされる中、世界中の人々がインターネット配信の世界にはまっていった。

そんなときに、韓国人にとっては過去の作品である『私のおじさん』が海外で激賞されているという話が伝わってきた。しかもブラジルの作家パウロ・コエーリョや日本の坂本龍一など、世界的な文化人が激賞しているというのだ。

「あのドラマが!?」と驚いた人は、作品を実際に見てまた驚いた。

「こんなにいいドラマだったとは……。はっきり言って名作です」

人気は再燃し、2022年3月には台本集が出版された。放映からすでに4年が経過しており、まさに異例のことである。そして私自身もこの韓国ドラマ屈指の名作を再び見直して、韓国の友人たちが絶賛する理由がわかったのである。

ネタバレに注意しながら、ドラマの背景の韓国事情について書いていきたい。まずは誤解の元となった「アジョシ(おじさん)」という言葉、そして舞台となったソウル市内のエリア解説、最後には個人的に印象に残ったシーンなどにも少しだけふれたいと思う。