辛口の映画関係者も推す、異色のドラマ
またまた韓国ドラマの大ヒット作が登場した。2022年2月25日にNetflixで配信がスタートした『未成年裁判』(原題『少年審判』)である。翌週には同配信のグローバルトップ10(テレビ・非英語)で1位に浮上した。
『イカゲーム』『地獄が呼んでいる』『今、私たちの学校は…』に引き続き、韓国ドラマの強さは圧倒的ともいえるのだが、前3作と大きく違うのは、この『未成年裁判』は韓国国内でも非常に評価が高いということだ。
「1話から引き込まれて、10話まで一気に見てしまった」(50代女性)
「これまでの3作は視覚や音響などエンタメとしての作りが上手だったということ。でも今回の『未成年裁判』はちょっと違います。オススメです」(20代男性)
様々な人に意見を聞いてみたが、『今、私たちの学校は…』を10点満点中6点と言っていた映画業界にいる20代男性も、この『未成年裁判』は珍しく褒めていた。もっとも彼は『ドライブ・マイ・カー』(2021年、濱口竜介監督)にとても感動したそうで、そちらについてさらに熱く語ってくれたのだが。これは印象だけれど、韓国の若者は自国の作品についての評価がとても厳しい。業界関係者はなおさらである。
珍しく(?)自国でも大人気という『未成年裁判』だが、内容は原題にあるように「少年審判」の法廷を舞台にしたものだ。韓国では以前から「少年法」をめぐっての議論が起きているが、本作はそこに真っ向から挑んでいる。
非行少年を憎悪する女性判事
それは1球目からど真ん中のストレート勝負という豪腕ぶりだ。たとえばこんな台詞とか。「14歳未満は人を殺しても刑務所には入らないって、本当なんですか?」
残虐な事件の容疑者として法廷に立った少年はニヤついた表情でうそぶく。それとの強いコントラストで描かれるのは、女性判事の冷酷な表情だ。
「私は非行少年を憎みます」韓国語では「非行少年」ではなく「少年犯」となっている。
主役のシム判事を演じるキム・ヘスは、1980年代半ばからずっとドラマや映画の第一線で活躍してきた大ベテラン女優だ。浮き沈みの激しい韓国芸能界にあって、ある意味で稀有な存在ともいえる。以前から変わらぬ大振りな演技は好き嫌いが分かれるが、今回は「はまり役」という評価が多い。脇を固める役者がもれなく当代の演技派で、あまりにも自然体なだけに、新劇チックな身のこなしの主役が、あえて作品の「ドラマ性」を強調する。ふりかえり方、肘の付き方、腕の組み方。
「これって映画『タチャイカサマ師』(2006年、チェ・ドンフン監督)のときの賭博師役と同じポーズだよね」
友人の指摘にはうなずくしかないのだが、この法廷ドラマでは「キム・ヘスがキム・ヘスであること」が重要なのだと思う。それはドラマが実話ベースに作られているからだ。
全10話の中に登場する主な事件は、いずれも韓国で実際に起きた少年事件を元にしており、当然ながら加害者も被害者も実在する。ならば、あえてドラマはドラマっぽく、現実の事件と切り離されたほうがいいと思う。日本や外国の視聴者が考える以上に、このドラマが韓国で制作され、配信されることの意味は深く、制作者の社会的責任は重いのだ。