出生前診断はダウン症の命の選別をする診断なのか

松原さんは2015年にみぎわを設立し、2018年に特別養子縁組をスタートさせた。

「NIPTは女性にとっていいことばかりではありません。
出生前診断には遺伝カウンセラーがつきますが、障がいがある子どもが産まれる可能性があるとわかったときに、中絶を選択する母親もいる。自分の意志で答えられない子どもに対し、命の選別を本当にやっていいのか、その思いが強いんですよね。
特にNIPTはダウン症を標的にしていると私は思っています」

NIPTは血液検査によっていわゆるダウン症の21トリソミーと、18トリソミー、13トリソミーという3種の染色体異常を調べることができる。18トリソミー、13トリソミーは流産する確率が高いことから、NIPTはダウン症の命の選別をする診断だと松原さんは危惧しているのだ。

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出生前診断を受けて胎児に障がいがあると判明した場合、堕胎手術を受けるケースが9割とも言われている。母体保護法の経済的理由という条文に当てはめられ、実質は、親の希望のもと行われているのが現状だ。

母体保護法は、もともとは優生保護法からきており、1996年に「不良な子孫の出生を防止する」といった優生思想に基づく規定が削除されたものである。
松原さんは、出生前診断は、優生思想が根底にあると指摘する。

「命を守ろうと口で言うのは簡単ですが、実際に救えるようにしないといけない。
だから私に預けてもらったら、障がいを持ったお子さんと温かい家庭をむすびつけられる、みぎわをそんな特別養子縁組ができる団体にしたのです。

僕も実際に心臓手術した大和くんを引き取って、家族のしんどさや悩み、辛さを理解できました。でも、それを経験してしまえばただの“普通”、当たり前の日常があるだけなんですよ」