「お金がない」という理由で、病院にも行かず
「ごめん。叔父さんの病院のお金少しもらってもいい?」
この時ばかりは、さすがに嫌とも言えない。倒れた叔父さんは控え目で、「お金を頂戴」とも言わず、ミカの方から少しだけ金を渡すと、「ありがとう」と喜ぶような人だった。奥さんとも仲が良さそうで、まだ小さい子供がいる。
「叔父さんすごく優しかった。子供の時、ずっと面倒見てくれたし、遊んでくれてた。なんでこんなことになっちゃうの」
数カ月前から頭痛がすると言っていたそうだ。だが「お金がない」という理由で、病院にも行かず、「お金上げるから検査をして」と、ミカが日本から連絡しても「大丈夫だから。俺は元気だから」と断っていたという。
日本からフィリピンへ送金しているというと、フィリピンのすべての親戚が金を要求しているように思われがちだが、実際は人による。「体調が悪いから薬代をくれ」と毎週のように連絡をしてくる親戚もいれば、本当に体が不調なのに一切相談もせず、病気が悪化してしまう親戚もいる。
50代で亡くなったおじさん
翌日、叔父さんは病院で息を引き取った。まだ50代だった。
最後にフィリピンで会った時は、奥さんと子供たちを連れてミカの家に遊びに来ていた。「外国人」の僕にも、ニコッと笑い、挨拶をしてくれ、一緒に軒先でビールを飲んだ。
ミカはビデオ通話をしながら泣いている。スマホの奥にいる叔父さんの家族たちも泣いている。僕は黙って金を渡す。
「これ、葬儀代に使ってもらって」
「ありがとう」
もし亡くなるとわかっていたら、最後に会った時に少しばかりお金を渡しておけばよかったと後悔する。せめてそのお金で最期に、美味しいものを食べて、家族で楽しい時間を過ごすことができていたら、と──。