熱帯の地へ

暑かった。ベラクルスは、いつ来ても暑い。もわっとした空気が体中にまとわりつく。
ベラクルス州、コルドバ。熱帯に近い気候でジャングルが生い茂っている土地である。遠くには、霊峰オリサバを見ることができ、海が近いせいもあって空気は湿気をはらんでいる。朝起きると、南の鳥たちが甲高い声で合唱をしている。人々は涼しげな服をまとい、いつも額に汗を滲ませている。人々の肌は浅黒く、健康的に日に焼け、厳しい日差しがそこかしこに降り注ぐ。それが、ベラクルス。そして、このコルドバの先に、パトロナスの人々がいる。

アメリカンドリームを夢見る中米移民たちを乗せて走る「野獣列車」。屋根に人が乗り、線路脇からは食料が投げ込まれる衝撃的な光景_5
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彼女たちと連絡を取るのは至難の業だった。メキシコではよくあることなのだが、取材相手があまりにも田舎に住んでいると、まずインターネットがない。そのために、電話で連絡を取るしかないのだが、その電話すら、いくら鳴らしてもつながらないときが多い。そんなときはどうするのか? また鳴らすのである。鳴らしても出ないときは、出るまで鳴らす。 これが第一の鉄則。それでも、出ないときは? 実際に行ってみる、である。

文/嘉山正太  写真/shutterstock

※第2回へつづく

今回のエピソードを基に嘉山正太が脚本を執筆した、衝撃のオーディオドラマ『移民と野獣』(制作:SPINEAR)が、現在各種サービスで配信中です。ぜひご聴取ください。
https://www.spinear.com/shows/iminto-yaju/

マジカル・ラテンアメリカ・ツアー
妖精とワニと、移民にギャング
嘉山 正太
アメリカンドリームを夢見る中米移民たちを乗せて走る「野獣列車」。屋根に人が乗り、線路脇からは食料が投げ込まれる衝撃的な光景_6
2022年9月26日発売
2,090円(税込)
四六判/276ページ
ISBN:978-4-7976-7417-0
移民問題の取材のためメキシコのベラクルスを訪れた、ネットメディア『ライトハウスポスト』記者・蛇ノ目悟(演:新祐樹)。移民支援施設で知り合った元ギャングの男・カルロス(演:江頭宏哉)の壮絶な過去を知った蛇ノ目は、謎に包まれたメキシコの真実を報道すべく、移民たちと共に「野獣列車」に乗り込む。アメリカを目指す危険な旅路の果てに、彼らを待ち受けている運命とは……。
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