子供の将来は親の経済力が全てというわけでもない

勿論、遺伝の力を否定するものではない。しかし、現実の世界は研究室の中の無菌状態のシャーレではない。親の経済力など環境で子の将来がある程度決定づけられてしまうのもひとつの現実だが、それだけがすべてではないのだ。

遺伝子工学分野で新しい遺伝学として注目されているものに、「エピジェネティクス」研究がある。「エピジェネティクス」とは、「DNAの塩基配列そのものは変わらなくても、遺伝子の読み取られ方(オン・オフのスイッチ)が変化することによって、遺伝子の発現が制御されるメカニズム」のことだそうである。

簡単にいえば、遺伝子情報そのものは親から受け継がれ、変わらないが、その情報のすべてがオンになっているわけではなく、オン・オフのスイッチはその後の様々な環境によって変わるというもので、こちらの説の方が妥当性を感じる。人間、どこで何かの影響でスイッチが入るかどうかはわからないのだ。

繰り返すが、環境とは時間と場所と人である。どんな時代に、どんな場所で、誰と何を行動したのかによって劇的に変わる。

親ガチャの真実…身長・体重は9割、知能・学業成績も5、6割は遺伝という衝撃! 生まれてくる時期や場所、親は選べないけれど、いつまでもその場所にいるわけではない_4
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人間関係の変化こそが重要な環境になる

確かに、生まれてくる時期や場所、親は選べない。しかし、いつまでもその場所にいるわけではないし、親といつまでも一緒にいるわけではない。普通に考えれば親は先にいなくなる。時代を変えるというタイムスリップはできないが、タイミングを計ることはできる。場所などいくらでも移動できる。職場であれば、転職すればいいだけだ。

能動的でなくても、勝手にそういう環境になっている場合もある。経営者の交代やM&Aや、小さい事でいえば上司が変わっただけでも実は劇的な環境変化になり得る。そして、この人間関係の変化こそが重要な環境になるのである。

時間と場所と人をいい換えると、「時間・空間・人間」という言葉になる。この3つの「間」が環境そのものであり、その「間」をいかに感じられるか、スイッチとしてとらえられるかが、重要になる。

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『「居場所がない」人たち: 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論 』
(小学館新書)
荒川和久 
2023/3/31
1034円
224ページ
ISBN:978-4098254439
居場所がなくても幸福と思える生き方とは?

2040年には、独身者が5割に。だれも見たことのない、超ソロ社会が到来する。
ますます個人化が進む中、私たちは家族や職場、地域以外に、誰と、どこで、どうつながれば、幸福度を高められるのか?
また、親として、人生の先輩として、これからその時代を生きる子どもたちに何を伝えられるのか?

家族、学校、友人、職場、地域・・・・安心できる所属先としての「居場所」は、年齢を重ねるごとにつくるのが難しくなり、時に私たちは「居場所がない」と嘆く。
また「そこだけは安心」という信念が強すぎるがゆえに、固執し、依存するという弊害も生まれる。

では、居場所がなく、家族や友達をもたず、一緒に食事をする相手がいないのは、「悪」なのだろうか?常に誰かと一緒でなければしあわせではないのだろうか?

社会の個人化も、人口減少も、もはや誰にも止められない。私たちに必要なのは、その環境に適応する思考と行動だ。著者が独身研究を深掘りした先に示すその答え=〔接続する〕関係性、〔出場所〕という概念とは?

結婚していてもしていなくても、家族がいてもいなくても、幸福度を上げるための視点とヒントに満ちた一冊。
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