沖縄の白か黒かではない現状を巧みに表現するセリフ
──ストーリーを通して、沖縄の人たちの白か黒かではない現状が丹念に描かれていると感じます。高江洲さんの思いが表れているシーンやセリフなどがあるのではないでしょうか。
「生まれたときから、そこにあって、国が変えるつもりがないものを、変えられるわけがないさ」という伊佐兼史(青木崇高)の発言などは、まさにそんな心情を表現したものですね。
でも、これも僕が考案したものはありません。すべて野木さんが40日間の取材を経て考え出したものです。
──高江洲さんご自身が「これは」と思ったシーンやセリフはありましたか。
第四話「マブイ」で桜が「ずっと(米軍基地)反対と賛成で争わないといけないウチナーンチュが、それでも一緒に生きていこうとしたら、曖昧にするしかないんだよ」というセリフには心打たれました。ラッシュを見ていて、とても胸が締め付けられましたね。「あぁ、そうやって沖縄の現状を表現する方法があったのか」と目から鱗でした。
こういう気持ちが、自分たちでは言語化できなかったんです。それが桜のセリフとして出てきたときに、ちょっと勇気をもらえるというか、そうか、こういうふうに表明することができるんだ、という気づきが与えられましたね。
桜がヨシおばあに、「私が、辺野古に基地を作るべきだ、って言ったらどうする」と言うシーンがありましたよね。野木さんが僕に、「高江洲さんもし、息子さんに同じこと聞かれたら息子さんに何て答えるの?」って聞いてきたことがありました。
──野木さんに、何て答えたんですか?
ヨシの答えと同じです。「一生懸命考えて出した答えなら、それでいい。ただ、意見が違っても、相手の考えも尊重しなければだめだよ、と言うと思います」と答えました。
――また、第五話の中で、松岡茉優さんが発した「沖縄の問題じゃありませんよ、日本の問題です」というセリフがとても印象的でした。
そうですね。これも、どういう言い方がいいか、いろいろと話し合ったような記憶があります。もう少し、オブラートに包んだような表現にしようか、どうしようかと。最終的に、今のようなストレートな表現になったのだと思います。
──通しで作品を観ると、「ストーリーだからこそ伝わってくるものがある」とひしひしと感じました。
僕もこの作品を作ってみて、沖縄のリアルを伝えるには「ストーリー」というフォーマットが最適であると改めて感じました。主人公と物語を歩むことで、情報が自然と入ってくるし、何よりもそこに生きている人の複雑な感情を描くことができる。
SNSでも「沖縄って、本当はこうだったんだ」というような番組の感想をよく見るんですけど、嬉しいですね。この複雑さを、複雑さとして伝えることができたなぁ、と。
──続編も考えておられますか?
続編は今のところ考えていませんが、『フェンス』の続編をもしやるとしたら、またこの座組みでやりたいですし、それしか考えられません。
それとは別に、個人的な野心としては、沖縄を舞台としたホームドラマをやってみたいとも思っています。今作とは違う角度から、沖縄を描いてみたいですね。
文=江口 匠 撮影=五十嵐和博
「連続ドラマW フェンス」
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