前編 〈刑務所出所者を雇用する社長〉栃木のレディース暴走族「魔罹啞」の初代総長は、いかにして刑務所出所者たちの“聖母”(マリア)となったのか?
覚せい剤の売人として二度服役
昨今の人口減少もあり、犯罪の認知件数や検挙者数は減少しているが、一方で高い値をキープし続けているのが再犯者率だ。「犯罪白書」によれば令和3年の刑法犯の再犯者率は48.6パーセント。また「一度刑務所に入った者が再び刑務所に入った」割合を表す「再入者率」も、男性は57.0パーセント、女性は48.1パーセント(令和3年)。受刑者の約半数は、複数回の服役を経験していることになる。
いっぽう、再犯や再入所を防ぐために重要なもののひとつが仕事の有無だといわれている。実際、法務省が公表している資料によれば、刑務所再入所者のうち、再犯時に仕事がなかった者の割合は約7割である。
出所後の就労をバックアップするために法務省は協力雇用主を募っている。協力雇用主とは、刑務所出所者など、犯罪や非行に走った人を雇用し、または雇用しようとする事業主のことだ。協力雇用主に対しては国もさまざまな支援を行なっている。
ノンフィクション作家、北尾トロによる新刊『人生上等!未来なら変えられる』(集英社インターナショナル)は、そんな協力雇用主が主人公だ。かつてレディース暴走族の総長をつとめ、二度の服役経験がある建設請負会社社長の廣瀬伸恵である。本書を執筆するきっかけは、協力雇用主による求人情報誌『Chance!!』(2018年創刊)に求人広告を出した廣瀬を、北尾が取材したことだった。
栃木に生まれた廣瀬は中学二年のころに家出し、鬼怒川温泉のコンパニオン、暴力団員による監禁を経験する。その後レディース暴走族『魔罹啞(マリア)』を結成し、組織を大きくしたが、覚醒剤の売人となり、二度服役。だが二度目の服役中に獄中出産すると、子どものためにと、がらりと生き方を変えた。出所後に建設請負会社を立ち上げ、今では出所者を積極的に雇い入れている。
3月4日に東京・渋谷の大盛堂書店にて開催された刊行イベントでは、著者の北尾トロの傍聴界の後輩であるライターの高橋ユキが、協力雇用主となるまでの廣瀬の半生を聞いた。