暴走族初代総長、覚せい剤売人、手錠に腰縄をつけたまま獄中出産……鬼怒川温泉でお酌していた中学生コンパニオンの激しすぎる半生
レディース暴走族「魔罹啞」の初代総長
裁判傍聴や町中華、狩猟など、さまざまな世界を軽妙な文章で垣間見せてくれるノンフィクション作家、北尾トロ。2月に刊行された『人生上等!未来なら変えられる』では、かつてレディース暴走族『魔罹啞(マリア)』の総長をつとめ、二度の服役経験がある建設請負会社社長、廣瀬伸恵に密着している。
北尾は相棒として旧知のカメラマン、中川カンゴローを誘い入れ、ふたりで廣瀬の元に通い、取材を重ねた。廣瀬の半生はハードだが、北尾の軽妙かつ味わい深い文章により、まるで自分も廣瀬の会社でお茶を飲みながら一緒に話を聞いているかのように読み進めることができる。
今も裁判所で北尾とばったり会うこともあるという高橋の構成で、新刊刊行のイベントレポートをお届けする。
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北尾 僕が裁判傍聴を始めたのが2000年の前半ぐらい。当時の自分の連載テーマに「裁判の傍聴」があったんですね。実は裁判の傍聴は誰でもできるという、今となってはみんなが知っているようなことを、当時は全然知らなかったし、世間に知られてもいなかった。そこで一度見に行ったら、普段ニュースや新聞に載っているデカい事件と全然違う世界があった。ニュースにならないような裁判でも、当事者である被告人は、必死なわけです。なんとかして実刑を免れたい、少しでも量刑を軽くしたいと、土俵際で踏ん張ってるみたいな雰囲気があった。それに魅せられて、裁判所に通い始めたんです。
それから1〜2年した頃かな。その頃の裁判所って、いわゆる傍聴マニアはまだ少なかった。法曹関係者、事件関係者以外で傍聴している人は、課外授業で学校から来ている中学生、高校生以外はあまりいなかったんです。そんな中にユキさんがポツンと(笑)。
高橋 急に現れて、すみません(笑)。
北尾 急にいたんですよ。でも、僕は小さい事件、ユキさんは最初からわりと大きい事件を追っかけていたから、年中会うわけじゃないんですけど、例えばロビーで見かけたり、たまたま僕が大きい事件を見に行ったときに、僕が座りたいような良いポジションの席にユキさんが座っていたりして「何者なんだ」と思っていたわけです。
高橋 そうだったんだ。すみません(笑)。
北尾 その頃、傍聴マニアのおじさんたちが少数ですけど存在していて、東京地裁が霞ヶ関にあることから「霞ヶ関倶楽部」という傍聴集団を作ってて情報交換していた。彼らもユキさんになんとか指南したいと盛り上がっていたんですよ。「あの子は一体誰なんだろうね」「裁判の見方知ってんのかな」みたいな感じで、うずうずしてるのが分かって。
高橋 ちょっと怖いけどありがたいです(笑)。私はその頃、傍聴仲間が欲しいと思いながら、裁判所に一緒に行きたいという知人を案内したりしていたんですが、たまたまトロさんの当時の連載で「霞ヶ関倶楽部」のダンディさんという男性にインタビューしている記事を読んだんです。これだ、と思って、傍聴集団の「霞っ子クラブ」を作りブログを開設しました。それが今の自分の始まりになったので、トロさんには本当に感謝しているし、頭が上がらないです。