覚醒剤を売って稼いだ金で、「みんな、ホスト行くぞ」
高橋 そんなわけで写真がたくさん掲載されているんですね。
北尾 そうです。昔の写真もたくさん借りて。中学生で鬼怒川温泉でコンパニオンをやっていたころの写真も載せています。そのコンパニオン時代の源氏名が「明美」。廣瀬さんはそれをなぜか気に入って、今も使ってる。
高橋 レディースの『魔羅啞』は廣瀬さんが立ち上げたんですよね。
北尾 初代総長なんですけど、ものすごい愛着を持っている。『魔羅啞』の後輩や仲間たちに……いい格好するために悪いことをしてたみたいなところがあって、覚醒剤を売って稼いだ金で、「みんな、ホスト行くぞ」みたいな。もともと持ってる気の強さも含め、リーダーのタイプというか、人の下にいるタイプではなかったと思うんだよね。裁判で懲役5年が言い渡されても、傍聴席を埋めている後輩たちに笑顔で軽く手を振ったり。心ではもう怖くて怖くて泣いてたんだけど。
高橋 そして出所後、ふたたび覚醒剤の売人になり、二度目の服役となってしまう。そのとき、当時の交際相手との間にできた子を獄中出産したことが、彼女の人生観を変えるくらいの大きな出来事だったように思いました。
北尾 手錠に腰縄をつけたまま出産して、産んですぐに赤ちゃんの顔を見ますよね。対面はほんの数分で、すぐ引き離されてしまった。そうすると、そこで初めて「もう自分1人の人生じゃないんだ」、「もう私が変わらないとダメだ」っていうふうに思ったらしいのね。
高橋 その後出所して地元に戻るけれど、過去の“明美”の存在を知られているから、なかなか雇ってもらえない。そういう中で、建設請負会社を立ち上げたんですよね。
北尾 そう、当時の彼氏と一緒に作って。人を雇ってというふうに広がっていったよね。
高橋 雇った人を住まわせたり、ご飯をふるまったりとかするようになりますが、こういう面倒見の良さは、出所者にはすごく嬉しいんじゃないかなって思いました。彼らが寂しい思いをしてきたからとか、あんまり家族でご飯食べてなかったとかってこともあるのではないかと。
北尾 まさにその通り。だけど事務所を作ったけど、相変わらず明美(廣瀬)の評判は悪いわけです。誰も人を紹介してくれないし、普通に求人広告出しても来ない。自主的に出所者の雇用を始めるんですけど、そんなときに『Chance!!』が創刊された。「『絶対にやり直す』という覚悟のある人と、それを応援する企業のための求人誌」。
高橋 この創刊第2号に求人広告を出すようになってやっと会社に人材が集まり始めたんですね。