大舞台直前に絶不調とケガ
「自信をつける、つけないというところに僕はいなくて」
全日本選手権を前に、宇野は興味深い話を洩らしていた。
「そんなに自信があるわけでも、ないわけでもない。練習で100%成功していても試合で失敗することはあるし、試合だけうまくいく場合もあって。ただ、僕はフワッとしたものはあまり好きではない。
例えば、勝負強さって運がいいだけにも思える。メンタルはすごいけど、自分にとっていいことではない。基本は練習してきたことが試合に出るべき。
今シーズンは試合ごとに課題を見つけ、次の試合で活かせているので、最後に完成を見せられるように」
全日本選手権のSP、宇野は練習で失敗が多かったが、感覚を研ぎ澄ませ、演技を完成させた。
練習に全力で取り組むことで、練習と試合の境がなく、試合で練習以上の動きも出るようになった。鍛錬の典型だ。
「6分間練習を滑って練習してきたのと違う感じでした。でも焦るのではなく、今どうすべきかを考えて、自分をコントロールできました。
スピードを出しすぎず、ゆっくり丁寧に滑ろうって。スピードが出ないリンクで、無理にスピード出そうとすると失敗するなって」
宇野はそう説明しているが、適応力の高さが尋常ではない。短時間で機転を利かし、誤差を修正した。
「自分は試合にかける思いが強く、そこまで深く思い詰めなくてもっていうくらいで。でも何ひとつ投げ出さずにやってきたからこそ、この状況はこうなるなっていうのがわかってきました。
それを活かせたショートだったと思います。最近は失敗が経験になるのもわかってきて、スケートを苦しくなくやれていますね」
そして、さいたまスーパーアリーナで行われた世界選手権に、宇野の真価があった。
大会公式練習に入る10日ほど前から、宇野は突如としてジャンプの感覚を失っていた。大会開幕前日の練習、驚くほどジャンプの成功確率は低く、特にループ、サルコウ、フリップの3本は完全に調子が狂っていた。
「全部のジャンプが調子悪いので、靴の(問題の)気もするんですけど、だからと言ってどうすることもできない。跳べるイメージが湧かないので、どうしたものか。
20%の確率のジャンプで、いろいろ模索はしていますが、変わる気配はない。やるって覚悟を決めるしかない」
宇野は調子をアジャストさせようと、練習では限界まで攻めていた。それが翌日の公式練習でのケガにもつながった。
サルコウの着氷で右足首をひねり、氷の上に崩れ落ちた。緊急事態だった。不調に加え、ケガまで背負うことになったのである。ケガ予防が万全だったことで、歩行困難になる事態は避けられたが……。
「久しぶりに、感情を試合にぶつけるような演技になりました。いつもより、さあ頑張るぞ、と」
宇野はそう語って、自身の力を総動員した。底力がない選手は空回りしていただろう。
「逆境に強いかは別にして、こういう経験は過去にもしてきました。痛い中での練習もやっていて。当時は身のためにならないって思ったのですが、おかげでどこをかばって、どういうジャンプになるかって、予想できました。
悪いからといって、救済もない。今の自分は何ができるか。フリップが痛くて跳べないなら他のジャンプ。跳べそうなら絶対フリップって。自分は直前に変えたジャンプで成功した例がほとんどないし、6分間練習では跳べていたので……」