海南島からスパイ気球を追尾・監視していたアメリカ
しかし、中国の遺憾の意に米側は満足せず、ブリンケン国務長官が「偵察気球が訪中の目的を台無しにしてしまった」と、出発数時間前に中国訪問をドタキャンする事態に。
こうなると、中国も後に引き下がれない。「アメリカは過剰反応している。気球撃墜は国際慣行に違反する軍事力行使で、中国の顔に泥を塗るもの」と激しく反発した。すると、バイデン政権はさらに強硬姿勢を強め、翌4日についにサウスカロライナ沖を飛行していた気球をF-22のサイドワインダーで撃墜し、米中関係は一気に緊迫した。
以上が中国「スパイ」気球事件の大まかな流れだが、その後、さまざまなことがわかってきた。米メディアによると、米当局は気球が中国海南島から打ち上げられた1月20日頃から継続的に追尾・監視していたという。つまり、最初からアメリカはこの気球が中国のものとわかっていたのだ。
当初、アメリカは気球がグァム島にある米軍基地上空へ飛行すると予測していた。ところが、気球は予測に反して北へ進路をとり、アリューシャン列島からアラスカ、カナダを経て米北西諸州に侵入してしまった。
この動きを米当局は気球が何らかの理由で制御困難となり、グァム島へと飛行できなくなったため、中国側が偏西風を利用して気球を米本土へと飛ばし、モンタナ州やサウスダコタ州などにある戦略防衛基地上空の偵察へと切り替えたのだろうと分析している。
狙いはモンタナ州やサウスダコタ州などにある戦略防衛基地である。つまり、中国は気球の偵察ターゲットをグァム米軍基地から、米北西部に集中する米戦略防衛基地へと切り替えたのだ。
驚くのはアメリカが気球の正体だけでなく、海南島という気球の打ち上げ場所まで事前に把握していたことだ。
きっかけは昨年6月、ハワイ沖での気球墜落だった。その残骸を回収して分析したところ、海南島に中国人民解放軍を中心とする気球部隊が存在していることが判明し、以来、アメリカはこの気球部隊の動きを監視していたとされる。
米国防省のUAP(未確認空中現象)調査によれば、ここ数年間で360件のUAPが確認されており、その半数が気球だった。たとえば、トランプ政権時に6回、バイデン政権になってからも3回、偵察気球と思われる物体が米領土内で目撃されている。
これらから米国防省は気球による気球による偵察は中国人民解放軍が世界で展開するグローバル監視作戦の一環であると結論づけていたという。