中国の目的はスパイあぶり出し?

「気球撃墜事件」で明らかになったし烈な米中インテリジェンス戦争の緊迫度_3
今年2月、中国の飛行物体撃墜に関してメディアに語るマルコ・ルビオ上院議員
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アメリカは2月4日に気球を撃墜して残骸回収を終えると、わずか6日後の2月10日には早くも商務省を通じて中国の気球関連部品メーカー6社を経済制裁リスト(Entity List)に加えている。その中には気球関連技術で多くのパテントを持つ北京航空航天大学・武哲教授の関連企業数社も含まれている。

こうした迅速な対応は米側が中国のスパイ気球を日常的に追尾・監視していたからこそ可能だったのだろう。習近平政権は「軍民融合」というスローガンを掲げ、産・学・軍による協力関係による富国強兵策を進めているが、バイデン政権はま今回の気球騒動を逆手にとり、この富国強兵策にダメージを与えると同時に、対中経済制裁の強化をもやってのけたというわけだ。

それでは、中国は気球を利用して何を得ようとしたのだろうか?

目的が米軍基地の画像情報なら、中国はすでに260基のスパイ衛星を保有しており、わざわざローテクの気球を使う必要はない。米専門家の多くは中国の目的は米軍基地間の無線・通信を傍受、チェックするためだったと分析していたが、冒頭のNBCテレビの報道はまさにこの懸念が裏付けられたことになった。

無線交信の周波数帯や携帯電話信号は大気圏上を飛ぶ衛星からは傍受しにくい。その点、せいぜい数千メートルの高度を飛行する気球なら傍受はたやすい。

また、特定の施設や駐車場の車のナンバーなどを数時間チェックして画像情報として入手することも気球ならば、比較的簡単にできる。ものの数分で上空を通過してしまうスパイ衛星と違い、気球なら推進装置を使って長時間、空中に停止して偵察することができるからだ。

こうした気球による偵察で得た情報はその他のインテリジェンスとリンクさせた時、大きな威力を発揮する。

中国は2015年に米連邦政府人事管理局(OPM)の2000万人分のデータをハッキングし、職員の住所、誕生日、社会保障番号、財務状況、健康状態などの個人情報を盗んだとされる。また、2018年、2020年には政府職員の定宿となっているマリオットホテルの情報システムがハッキングされ、500万人以上のクレジットカード番号や顧客情報が中国当局に流出したとされる。

これらのハッキング情報と気球による偵察情報をリンクさせて解析すれば、スパイのあぶり出しも可能となる。

たとえば、CIA関連施設付近で利用されたクレジットカード利用情報とハッキングした膨大な個人情報を重ねたとしよう。そうすると政府職員名簿に名前がなく、マリオットホテルに頻繁に宿泊し、バージニア州のCIA施設付近でよく買い物をする人物で、かつCIA施設の駐車場に車を停める人物は諜報活動に関与する、つまりスパイの可能性が高いと判断できるというわけだ。

その意味で気球はけっしてローテクな偵察機器ではない。偵察で得た携帯電話情報や車のナンバー画像などをハッキングで得たインテリジェンスと組み合わせれば、スパイ衛星をしのぐ重要情報を入手できるのだ。