日俳連の指摘に国税庁はどう答えたか?

この問題について、日俳連 小林氏は筆者にこのように語る。

「実務担当者が公表サイトで登録番号を検索する際に最も知りたいのは、取引で日常的に用いる屋号(=芸名)。芸名さえ分かれば、登録番号の有効性は確認できる。逆に、本名は検索結果として表示される必要はない。そもそもインボイス発行事業者への登録時にe-Taxを経由する仕組みなのだから、国税庁側としては本名もマイナンバーも確認済みのはず。

それにもかかわらず、公表サイトで改めて本名を公開する必要性が分からない。『公表サイトからの個人情報流出が原因で、アイドル声優などへのストーカー被害が発生したらどうするのか?』と国税庁に電話で問い合わせても、『事件が起こらないと対応できない』の一点張り。こうした懸念があるためインボイス登録をためらっている声優・俳優は大勢いる。

一方で問題の深刻さに気付いてない者も業界には多く、深く考えずに所属事務所側が屋号登録を促して、声優・俳優がリスクを理解しないまま従ってしまう恐れもある」


こうした問題意識に基づいて、2月3日のインボイス超党派ヒアリングで日俳連の小林氏は国税庁(課税部 軽減税率・インボイス制度対応室長 福田あづさ氏)に改善を提案。

*該当シーンは18分32秒から。外部配信サイト等で動画を再生できない場合は筆者のYoutubeチャンネル「犬飼淳」 で視聴可能

【日俳連 小林】芸名を使っている以上、(事務局はインボイスの受け取り時に)芸名でしか確認できないです。(しかし、本名と芸名をセットで登録すれば)登録番号から本名がバレる。(現状の仕組みとは)逆に屋号を必須にして、本名は隠せないでしょうか?

【国税庁 福田】氏名に変えて屋号を公表することは、現行法上はできないとご理解頂ければと思います。

【日俳連 小林】ですから、それでは全く使えないデータベースになります。現に(公表サイトに)現在登録されている内容を見ると、屋号はほとんど入っていません。特に声優さんは(本名バレ・居場所バレに)気を遣って絶対入れないようにしています。そうなると、(インボイスを受け取った事務局は)番号の本人確認ができず、全く意味のないデータベースになっています。本名について、税務署は分かるが(公表サイトでは)公表しないようにできないでしょうか?

【国税庁 福田】最初のお答えになって恐縮ですが(中略)氏名に変えて屋号を公表することはできないとご理解頂ければと思います。

【日俳連 小林】それでは、ほとんどの声優さんは登録しなくなり、インボイス制度が成り立たないのではないでしょうか。

*この問いかけに国税庁は20秒以上も沈黙し続けたため、池水専務理事が補足説明を始める

【日俳連 池水】クライアントはこの声優に仕事を頼みたいと思った際に(インボイス発行事業者かどうかを)知りたかったら芸名で検索する。しかし(公表サイトの検索結果では)誰も出てこない。そうなると、公表サイトは使い物にならないのでは?

*これ以降も国税庁は既存の制度設計の説明に終始したため記載は省略

出典:2023年2月3日 インボイス超党派ヒアリング

ここまで具体的に日俳連が問題点を指摘したものの、国税庁は相変わらずゼロ回答。さらに、終盤の質疑では現地参加していた筆者も「芸名を用いる者にとっては任意項目の屋号が事実上の必須項目になっている」点を指摘したが、国税庁は現行制度の説明を繰り返すのみであった。

*実際のやり取りは当日映像(1時間17分10秒〜)参照