宇都宮健児氏らが財務省に申し入れ
前回記事、「氏名、住所も全世界に公開! インボイス制度導入で「あの漫画家の本名がバレる」は、やはり本当だった」では、インボイスによってペンネーム・芸名で活動するクリエーターの本名や住所がバレる仕組みを詳しく解説した。
今回は、なぜそのような制度設計になっているのかを解説していく。答えを先にお伝えすると、「個人のプライバシーよりも大企業の利便性を優先したから」。ただ、それだけである。
この事実が明らかになったのは、2022年8月8日の公平な税制を求める市民連絡会(共同代表は弁護士の宇都宮健児氏以降は「市民連絡会」と表記)による財務省申し入れにおいて。市民連絡会はインボイス制度の拙速な導入に反対し、政府(岸田総理、鈴木財務大臣 宛)に反対声明と6項目からなる質問書を提出。今回の本題である”本名バレ”は質問書の6点目に含まれている。
① 物価高とコロナ禍が同時進行する現状において、予定通り来年10月に導入する積極的理由は
あるのか
② 小規模・零細事業者が実質的に市場から排除される可能性と対応策をどのように考えているのか
③ 取引形態や就労形態によって税負担の公平性が損なわれることは問題ではないか
④ 制度の周知が不十分なため、簡易課税制度の事後適用を認めるなどの救済措置を導入すべき
ではないか
⑤ 帳簿作成に従来よりも膨大な事務負担が生じることは問題ではないか
⑥ 個人事業主の本名ウェブ公開による個人情報流出・プライバシー侵害は問題ではないか
出典:質問書の6項目を筆者が要約
*反対声明、質問書の全文は筆者がtheletter 「犬飼淳のニュースレター」で配信した「【独自】インボイス制度 6つの懸念に対する財務省の衝撃的回答」を参照ください。
当日、市民連絡会が1時間にわたって質問書の内容について官僚(財務省および国税庁)と質疑応答を行った結果、6項目全てにおいて政府は一貫して以下のような衝撃的なスタンスであることが浮き彫りになった。
・予想される数々の問題に対して 何の対策もしていない。そもそも、検討もしていない
・来年(2023年)10月の導入は絶対的な決定事項のため、その前提で全ての物事を進める
・個人のプライバシーよりも大企業の利便性を優先する、また、事実上は機能しない制度を救済策として主張するなど、一般市民とは著しく乖離した感覚で制度設計している