「自分の弱さに失望しました」

2019年の光と影は、宇野というスケーターの肖像を色濃く映し出すかもしれない。

2019年3月、それまで2シーズン連続2位で表彰台に上がっていた世界選手権で、宇野は4位に終わっている。

右足首のケガを隠して全日本王者になった後、四大陸選手権に強行出場して悪化させ、まともに滑れる状況ではなかった。しかし、本人は敗北から目を逸らしていない。

「自分の弱さに失望しました。“弱いな”と改めて思い知らされて。まずは、“トップと戦う実力がない”と言い聞かせ、成長して帰ってこなければ…」

宇野は涙を止められず、かすれる声で言った。同じ取材エリア内にあるテレビモニターには、王者ネイサン・チェンが記録的な高得点を叩き出す映像が映し出されていた。

残酷な対比だったが、彼は逃げていなかった。言い訳は一切吐かず、悔しい情景を己の目に焼き付けていた。

「今回の悔しさを、一日でも長く(続くように)刻みたい。短期間でも人は変われる。練習の基準を上げ、確率を高める。(自分に)一番自信があるのは、練習なので」

そう語る宇野は無念さに憔悴しきっていたが、目だけは光を灯していた。アスリートのそうした光景は、いつだって物語のプロローグになる。

宇野はそのシーズンを最後に、指導を受けていた山田満知子、樋口美穂子コーチの下を離れる決断をした。きっかけは本人の意志ではない。山田コーチから、「世界でトップのスケーターになりたいなら」と忠告があったのだという。

そして彼は旅立ったわけだが、新しいコーチとは巡り会えなかった。怒涛の如く、コーチ不在でのシーズンがスタートした。結果、かつてない不調に喘いだ。

11月、グランプリシリーズの初戦、フランス杯のショートプログラム(SP)で悪い予兆はあった。6分間練習からジャンプが悉く決まらない。完全にフォームを見失っていた。

本番でも4回転トーループで転倒しただけでなく、安定していたはずのトリプルアクセルまで失敗し、4位に低迷した。

フリースケーティング(FS)では反撃を誓ったが、今度はトリプルアクセルで2度も転倒。9位という結果で、総合8位に甘んじた。4シーズン連続で表彰台に上っていたグランプリファイナル進出を、この時点で逃すことになった。

「どん底を見た」

宇野本人の言葉だ。