「俺らはお客様に何を見せるか。まず重要なのは…」

オープンの30分ほど前にジムへ行くのも駐車場が数台しか停められないため、駐車位置を確保するためだ。30分前に駐車すると、オープンまでの時間は車内でテレビを見たり、スマホをチェックするなどで時間をつぶす。

そして、練習は午後1時まで徹底的に追い込む。これを「3勤1休」のペースで繰り返し、試合に備えているのだ。「練習」を生活の基盤に置くことはレスラーにとって「当たり前のこと」と武藤は言う。

「俺らはお客様に何を見せるかなんだよ。まず重要なのは体だよ。筋肉だよ。ただ、今のこの体を作るまでには、まるで薄皮一枚一枚を重ねるように繊細なことなんだよ。これって決して疎かにできないんだ。俺のモットーは『昨日の武藤敬司に今日は勝つ』。練習はきついし逃げたくなるんだけど、そう思って毎日戦ってますよ」

タイツ一枚でリングに上がるプロレスラー。四方から観客の視線を浴びることは同時に肉体ひとつで大衆を惹き付けることが不可欠になる。ましてや、興行の看板を背負うトップに君臨するレスラーとなれば、その責任と自覚は、他のレスラーの比ではないだろう。このトップレスラーだけが感じる「誇り」が武藤を練習に追い込んだ原点なのだ。

肉体を徹底的に追い込む武藤の「練習」に思いを巡らせると、日本のプロレス界で受け継がれてきた伝統を感じる。