コマチーナを好きな人が、各々好きなように楽しめばいい
カウンターの上には大きな黒板が3枚掲げられていて、チョークで書かれたメニューの横に時間がかかるものは所要時間が記されている。テーブルに置かれたメニューは「すぐ出る前菜」と「前菜」に分かれていたり、グリル料理やタリアータなんかには90分以上と記されていたりもする。
店の前の庭にあるテラス席についてはFacebookで「こちらからお客様が見えないため、あまりお構いできなくなってしまいます。夏は暑く冬は寒いです。時期によっては蚊が多いです」なんて注意書きがある。
先日はお隣のテーブルに男性が二人。30代ぐらいだろうか。漏れ聞こえてくる会話では(聞き耳立てていたわけではないのよ)、一人は地元、もう一人は時々鎌倉に食べ歩きに来ているようだった。地元の人がこちらを案内したのか、もう一人が「こんないいレストランを今まで知らなかったなんて」としきりに感心していた。
コマチーナには観光客もいれば地元の人もいるし、若者の男女もいれば、おばあちゃんおじいちゃんとお孫さんみたいなグループもいるし、一人で楽しんでいる場合もある。私みたいなのが浅はかにやりがちだけれど、この店は観光客向けとかローカル向けとか、そんなカテゴライズをするのが恥ずかしくなる。コマチーナを好きな人が、各々好きなように楽しめばいい。
そんなウェルカムな雰囲気もあって、とにかく混んでいる。シェフの亀井良真さんとスーシェフの野村さんで100種類近いアラカルトメニューに対応するので、慢性的に人手が足りない。挙げ句の果て、常連がウエイトレス&ウエイターを買って出た、なんてエピソードもある。足手纏いにならなければ、私もお手伝いしてみたい。あの活気の中に飛び込んでみたいのだ。
私がここを好きな理由をももう一つ付け加えておきたい。お化粧室だ。広くはないけれど隅々まできっちりと美しく作られていて、日本の大工さんによる手仕事の良さがしみじみ感じられる。
いろいろな要素をひっくるめて、究極の普段使いのレストランである。
写真・文/甘糟りり子