一審で「責任能力なし」二審で「責任能力あり」だが…

事件発生直後に逮捕された中村受刑者は、2017年、精神鑑定の結果「責任能力なし」とされたが、一審で懲役16年が言い渡された。

「一審が終わって和歌山地検は、結果が変わらないから控訴はしないと言ってきたんです。でも、弁護士さんがどうにか、控訴できるように持っていってくれて、再度、高等検察庁で、鑑定をやり直すことになったんですわ」

再度、鑑定が行われ、一審の鑑定に反し、「責任能力あり」とされた。しかし

「これで懲役20年、25年はいけるやろと期待を抱いたんですが、結果は懲役16年で変わらなかったんです。子どものことを思って、何度も何度も手書きで陳述書を書いて、検事、検察官に提出したんですよ」

2019年、結果は変わらず懲役16年が言い渡された。森田さんは声を震わせて記者に訴えた

「責任能力ありとされたのに、従来の裁判結果と照らし合わせて、って。根拠を示してください言ってるのに、それしか言わへん。地裁の判決を破棄してくれると期待、希望持ってたのにやな、前例やって言うたかて、それぞれケース違うやないか」

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2015年移送される際の中村受刑者(MBSより)

遺族を悩ませるのが犯罪被害者等給付金の問題だ。森田さんのケースでは民事裁判で2018年に加害者側に約4,400万の支払いが確定しているが「いまだ(加害者側から)賠償を支払う意向は示されていない」と森田さん嘆く。

「葬儀や弁護士費用印紙代の請求などで、数百万は負担しています。それに、裁判の対応などで仕事も休まざるを得ない状況が続いて、経済的には本当に大変でした」

70歳を超えた今でも、森田さんはアルバイトに出かけているという。
 
国から補償される犯罪被害者等給付金があるが、給付額は320万~2960万円と幅広く、2021年度の平均は665万円だった。

しかし、森田さんが手にしたのは、たった160万だった。

「そもそもも少額やのに、片親やからということで最低の320万の半分の160万しか入ってこなかったんです」

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お友達が送った寄せ書きと、都史君が履いていた靴

受け取る意志があれば、もう1人の親(元妻)にも振り込まれたというが、離婚した妻は受け取る意志を示さなかったという。
都史君を育てていたのは、紛れもない森田さんだ。その補償金を受け取るためにも、もう1人の親(元妻)の協力が必要であり、かつ、煩雑な手続きが必要とされる。

日本では、刑務所など加害者に支払われる費用は約2600億円、一方、被害者には犯罪被害者等給付金など約10億円に過ぎず、被害者が守られていない実態が浮き彫りになっている。

この犯罪被害者等給付金を巡っては、昨今、改善を求める声が大きくなっており、2022年に、上川陽子元法務大臣が会長を務める「犯罪被害者等施策の検証・推進議員連盟」が発足された。