取材をした数日後、ヨシオが行方不明に

「関西で一緒に死にませんか?」苦悩した宗教2世が「集団自殺」を選んだわけ_5
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ヨシオは自らも心中相手募集に何度か応じたが、返信が一度もなかった。だから、「もうその人は死んでしまったのかな?」と思ったという。もちろん、反応がないからといって、呼びかけ人が死んだかどうかはわからない。怖くなってやめてしまったのかもしれないとも感じていた。そのため、応じるよりも、募集した方が効率いいと考えた。

<関西で一緒に死にませんか?>

その後、呼びかけに反応があった。20代後半の男性だった。同じ県内に住んでいることから、実際に会うことになった。メールでもそうだが、実際の心中方法について話し合った。あくまで、ヨシオは練炭にこだわった。

この計画では、もう1人加わる予定があった。男性が別の掲示板で知り合った近県の女性(16)も参加するはずであった。しかし、その打ち合わせ以後は男性からの連絡は途絶えた。

さらにヨシオは掲示板で呼びかけた。同じ県内で、統合失調症と思われる20代前半の男性からメールがきた。一ヶ月ほどメール交換をした後、会うことになった。その打ち合わせでも、練炭自殺にこだわっていた。

2人は車の免許を持っていない。話し合いの結果、ヨシオがわざわざ免許を取ることになった。睡眠薬はすでに入手していた。精神科に通い、処方されていたのだ。眠れないわけではないのに、不眠を装ったのだ。さらに関西地方に住む女性(32)も加わった。

3人での打ち合わせをした後、統合失調症の男性は「やっぱり、死にたくない」と言い、抜けた。再募集すると、さらに別の20代中程の男性が加わるが、途中で脱落。結局は女性との2人になる。ただし、その女性は別のグループを優先して、連絡が取れなくなった。

「自分が世界のすべて。つまり、自分がいなくなれば世界が終わる、という考えもあるけれど、自分が死んでも世界は続くとも思っています。いずれ人は死ぬんです。ただ、そう感じながら生きていくのも嫌です。だから、他人と約束していれば、〝死ななければならない〟でしょ」

取材をした数日後、ヨシオが行方不明となった。父親が所有する車に乗り、いなくなった。その後、ヨシオは、先の女性と一緒に発見され、死亡が確認された。

宗教2世としての苦悩があった。一時は少年院での「内観」で親への感謝が芽生えた。しかし、それまでに培った人間関係のスキル、人生観などはなかなか変えられるものではなかった。

ストレスが蓄積された結果、「死にたい」という感情を湧き上がらせた。宗教2世は思春期に独特な悩みを抱える。そのケアを充実させる必要性を感じている。

取材・文/渋井哲也 写真/shutterstock