暴力団を辞めてもTSUTAYAのカードさえ作れない

2022年2月6日の西日本新聞の記事では「警察庁によると2010年~2019年で、警察などの支援を受けて離脱した元組員約6020人のうち、就労できたのはわずか194人」と伝えている。また、暴力団博士として知られる社会学者・廣末登の著書『だからヤクザを辞められない 裏社会メルトダウン』によると、2010年~2018年の間に、警察や全国暴力推進追放運動センターの支援による離脱者5453人のうち、就職できた者は165人、その割合は3%と非常に低い。

その理由のひとつに挙げられるのが、2011年までに47都道府県に施行された暴力団排除条例による「元暴5年条項」と呼ばれる規定だ。組を離脱しても元組員は、おおむね5年は暴力団関係者とみなされ、銀行口座の開設ができないのである。口座が開設できなければ、家の賃貸契約、家や車などのローン契約、携帯電話の契約や保険の加入などもできない。クレジットカードはもちろんのこと、TSUTAYAのカードさえ作れないと嘆いていた元組員もいる。この規定が足かせとなり、社会復帰が難航するのだ。

「シニアの元ヤクザの8割は生活保護」暴力団離脱後に直面する厳しい現実。「引退してもクレカどころかTSUTAYAカードも作れない」「元組員だと明かせば色眼鏡で見られ…」_2

だが、H氏は「普通の組員なら5年経たなくても口座は作れる」という。
“普通”という表現がわかりにくいが、要するに新聞沙汰になるような事件を起こさず、名前が公表されていない組員のことを指す。名前が出てしまうと、金融機関などによるデータベースに載ってしまうが、“普通”の組員ならブラックリストに載っていないことも多いのだ。
H氏が知る若い元組員らはデータベースに名前がなかった。

「自分は反社会的勢力の人間ではないとサインするかどうかは本人次第。例えリストに名前があっても、金融機関は危ない人物と思わない限り、なかなかそこまでチェックしてこない。組を辞めて5年以内に口座を作ったことがもし銀行にバレても、自分の知る限り、銀行側が顧問弁護士を通して口座を解約することはなかった」(H氏)

現役の暴力団組員が反社会的勢力ではないと偽って口座を開設し、それが発覚すれば、即刻詐欺罪で捕まる。「だが離脱していればカタギ、一般人だ。バレても詐欺罪にはあたらない。信義則違反にはなるが、それ以上のお咎めはない」と語る。

「条例ができた時は、口座がなくなったという話をけっこう聞いたが、すり抜けたヤツはけっこういる」とH氏。「残高が多い口座はそのままだったから、それを今さら、銀行がどうこうするということはない」と皆、高を括っているという。