暴力団幹部は「聞いたことないアホ」
埼玉の犯行を指示したとされる指定暴力団の組員の男(25歳)は、女子中学生と言い争いになった相手の男子生徒を痛めつけるため、自分が後ろ盾になっているという不良グループのメンバーを20人近くも招集。男子生徒の家を割り出し、この生徒を車で連れ去って監禁。集団で暴行して重傷を負わせた疑いで12月9日に埼玉県警に逮捕された。逮捕容疑は生命身体加害目的略取、監禁、傷害だ。
この事件を聞いて、ある暴力団幹部のT氏は「聞いたことないアホだし、構成員のモラル低下も甚だしい。うちの組にいるヤツがこんな事件で表に出たら、ガッチリシメる」と憤慨する。“ガッチリシメる”とは実際どうするのか聞いたが、残念ながらそこは答えてもらえなかった。
暴力団対策を行ってきた捜査関係者A氏に聞くと、「こんなのは氷山の一角。ほかにもアホな事件は数々ある。ヤクザの事務所の電話番に15歳の中学生を使っていたなんてこともあった」と話す。
都内のある暴力団の組長と代行が、未成年と知りながら15歳の少年を組事務所に寝起きさせて当番に使い、いずれ組員にしようとしていたのだ。
「警察が組事務所にガサ入れに行った時、組員がドアを開けなかったので、捜査員が雨どいを伝って3階に上り、開いていたトイレの窓から中に侵入。ガサ入れを行ったところ、押し入れで寝ていた少年を見つけて保護し、組長と代行をその場で、危険有害支配下に置く児童福祉法違反で逮捕した」(捜査関係者A氏)
暴力団業界も人材不足にあえいでいるということなのだろうか。
件の埼玉県の事件に対し前出の暴力団幹部・T氏は「記事を読む限り、半グレから組員になったようなヤツだろう。一方でヤクザに知り合いがいるというだけで、いい気になってる若いやつも多い。地元の先輩後輩のようなノリで、調子に乗りすぎたってところだろうな」と話す。
組員の男に話をしたのは女子中学生だったというから、年下の女の子に相談され、いいカッコをしたかったというところかもしれない。
他の暴力団関係者S氏は「カッコをつけたがるのはヤクザの習性みたいなもの」と言うが、「それにしても中学生に手を出すとは…」と呆れ顔だ。
「若い奴らに頼られたとカッコをつけたところで、組織の中で評価されなければ、ヤクザとしての信用は落ちる。業界の中で認知されなければ、信用すら保てない。こんな事件が表沙汰になって逮捕されれば、ヤクザとしての信用を得るどころか、所属する組や組織に迷惑をかけるだけだ」
5階の部屋から窓づたいに逃げ出した組員
ところが頼ってきた者を見放すようなヤクザもいる。
「尻に火が付けば、中途半端な奴らはすぐにでも仲間を見捨てる」と捜査関係者B氏が話すのは、遁刑者(とんけいしゃ)の事案だ。
遁刑者とは罰金以上の実刑確定後、保釈中などで外に出た際に逃走、刑の執行を受けないまま逃亡している者をいう。
「ある組の若い組員が違法薬物の所持・使用で逮捕され拘留されていたが、弁護士が動いて釈放された。保釈金を納付すれば、しばらくは自由の身だが、裁判ではやはり実刑判決が下りた。検察官と警官が刑務所に収監するため迎えに行くと、組員は捕まりたくないと、5階にある自分の部屋から窓伝いに逃げ出した。
その組員が逃げ込んだのは、同じ組の組員の家。だが、匿ったはずのこいつがすぐに警察に通報してきた。この男には前歴があり、しかもこの時、こいつも薬をやっていたんだ。自分が捜査されるのは時間の問題。だから警察に貸しを作って自分の罪は見逃してもらおうと思ったんだな」(B氏)
この組員は遁刑者と一緒に逮捕され、実刑判決を受けたという。
自分も収監前に逃走したことがあるという暴力団幹部Y氏は「迎えに来る検察官は、収監するための訓練をほとんど受けていないから、俺たちみたいのが逮捕される前に逃げるのはよくあることだ」と語る。
「薬物に手を出した者の中には、仲間を売るようなヤツもいる。自分の身がかわいいから、一緒に捕まっておいて、あとで釈放してもらおうとでも思ったんだろうが、甘い」
これまでの稼業人生で「人の後ろ盾になることはあるが、そこから得たものは何もない」と語るY氏。
「失ったものはたくさんある。社会的な信用とか友達とか。銀行口座とかクレジットカードもなくなった。世間的にいえば得たのはヤクザというレッテルだけ。そのレッテルが生活の基盤になっている。
生きていくためには何でもやるが、何もやらないのもヤクザだ。人に見透かされないよう肩肘を張り、見栄や虚勢を張るが、そこで義理を通せず、人気も信用も金も得られないなら、やるのはバカだ」(Y氏)
ヤクザというレッテルをヤクザとしての信用に変えていくには、アホやバカでは無理らしい。
取材・文/島田拓
集英社オンラインニュース班