老化を遅らせる秘訣

60歳になった“中年の星”山本博が語る五輪と年齢の壁。「『還暦』をネガティブにとらえちゃいけない。僕は今後も若い子たちとハンデなしで戦いたい」_2

色々な思いはあるが、オリンピックがアーチェリー選手にとって最高の舞台であることは、もちろん変わらない。還暦を迎え、パリ大会出場が絶望的になったが、次の2028年ロサンゼルス大会を語る。

「仮にパリに出て、ロサンゼルスを諦められるかといったら、きっと諦められない。最初に出たオリンピックの地ですから。今回、60代のスタートとしてナショナルチームに入れたらよかったけど、落選したから大幅にフォームや道具に手を加えられています。

選考会を通過していたら守りに入っちゃっていたでしょうね。ロサンゼルスのころ、第一線のどの辺にいるのか分かんないけど、体と心を整えていきたい」と退く気配はまったくない。

競技結果と同時に「社会にメッセージを伝えたい」という気持ちがモチベーションになっているという。

「アテネの時に『中年』を使ったのは、疲れている中間管理職のサラリーマンのみなさんに、40代って輝いて充実した年代なんだよ、と伝えたかったからなんです。その後、僕自身がうまくいかなくて、自分を立て直すことで必死だったんですけど、還暦を迎えてもう一度、発信していきたい。

還暦というのは日本人にとって大きな節目で、定年退職になる人もいて、老後資金を心配して、ややネガティブなイメージもある。そんな思い込みに僕は押し負けないようにしたい」

そう熱っぽく話す山本。

「現実的に、競技者としてオリンピックのメダルは遠のいちゃっているかもしれないんですけど、とにかく立ち止まらずに前に進むということをしたい。それは競技を続けること。苦しくて惨めな思いをしても試合に臨むことを僕ならできる。

これまで高校や大学の教員として二足のわらじで競技を続けてきた。今思えばそれがよかったんだけど、もしかしたら65歳の定年退職後に僕を選手として応援してくれる企業が現れたら、人生で初めてフルタイムで競技に専念できるかもしれない…とかって夢を膨らませています。

そうすると、ネガティブな気持ちがどんどん排除されて、自分の中でいいイメージが湧いてくる。同世代の皆さんと同じように老化はしていますよ。

ただ、僕が多くの皆さんと何か違っているとしたら、若い子たちとハンディなしで戦う場所を持っていることでしょうね。それは年寄りには辛い環境なんだけど、逆に強い刺激となって老化を遅らせてくれているのかもしれない」