研究現場で生まれた異次元のマシン

「球種がわからなくても、体が勝手に反応する」

好投手を相手にする打者にとって、この状態が理想である。球種がわかってからバットを振り始めては遅いし、頭で考えていたら体が反応しない。ただし、この状態を作るには鍛錬が必要だ。

しかし、それが五輪という国際舞台で、相手が対戦機会の少ないライバル国のエースだとしたら、どうだろう。その投手はずば抜けて能力が高く、他の投手のボールとはまったく質が異なる。しかし、そのボールを攻略しない限り優勝は勝ち取れない。

2021年に開催された東京五輪前のソフトボール女子日本代表は、そのような厳しい状況にあったが、彼女たちは頂点に立った。そこには、あるピッチングマシンの存在があったのだ。

そのピッチングマシンは、バッティングセンターにあるような映像付きのものと一見変わらない。だが、「精度」が桁外れに高い。球種ごとの投球フォームの微妙な違いや、球速、球質がそのまま再現されている。日本選手は、最大のライバルであるアメリカの二枚看板投手と、ピッチングマシンを通じて本番前から繰り返し対戦していたのだ。

ソフトボール日本代表を金メダルへと導いた「秘密兵器」。宇津木麗華の監督人生を変えた革命的なピッチングマシンとは?_1
ソフトボール女子日本代表の練習現場に導入されたピッチングマシン
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このバーチャル対戦により、頭で球種や球筋を理解する前に、体が反応するようになった。これに関して同ピッチングマシンを開発したNTTコニュニケーションズ科学基礎研究所の柏野牧夫(かしの・まきお)氏は、データを「身体化」させたと表現する。専門的にいうと、「無自覚に脳が情報処理を調整した」ということらしいのだが、現場では何が起きていたのだろうか。

東京五輪でソフトボール女子日本代表を率いた宇津木麗華(うつぎ・れいか)監督に、直接話を聞いてみた。