『silent』とは全く重ならない、
ろう者とのラブストーリー『星降る夜に』

主演は『最愛』(TBS系)で俳優としての評価を不動のものにした吉高由里子。そして相手役は、北村匠海。まずこの吉高由里子×北村匠海という既視感ゼロながらぴったりと思わせるキャスティングが『星降る夜に』の魅力だろう。

北村が演じるのは、生まれつき耳が聴こえない遺品整理士の柊一星。失聴者とのラブストーリーという意味で、最も『silent』の影響を受けやすいのが、本作と言える。

ただ、取材にあたって2話まで脚本を読ませてもらったが、いい意味で『silent』とはまったく重ならない。『silent』が中途失聴者の佐倉想(目黒蓮)の悲痛な胸の内に焦点が当てられていたのに対し、一星は少なくとも2話までの段階ではカラッとしていて悲劇性を背負ってはいない。下ネタも言うし、気になる女の子ができたら正面からアプローチする。耳が聞こえないことは彼のプロフィールの1つであって、それ以上でもそれ以下でもない、という描写が徹底されている。

印象で言えば、『ビューティフルライフ』(TBS系)の町田杏子(常盤貴子)に近いかもしれない。難病に冒されている杏子だが、キャラクターは快活で、沖島柊二(木村拓哉)との飾らないやりとりに、視聴者は惹き込まれていった。

一星も、吉高演じる雪宮鈴とは言いたいことは何でも言い合う関係性。そこに、45歳の新米産婦人科医・佐々木深夜(ディーン・フジオカ)がどう関わっていくかが、恋愛ドラマとしてのポイントになりそうだ。

脚本は、『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)の大石静。プロデューサーは『おっさんずラブ』の貴島彩理。2人のタッグは『あのときキスしておけば』(テレビ朝日系)以来。コミカルな序盤から一転、胸のちぎれるような別れを切なく描いて秀作となった『あのキス』に本作も続くことができるか。
テンポのいい掛け合いにクスッとしつつ、冬の星空のような澄んだ涙を流させてほしい。

北川悦吏子節が令和にどう描かれるか。『夕暮れに、手をつなぐ』

広瀬すず×永瀬廉という同世代から圧倒的な支持を集めるキャスティングで送るのが、『夕暮れに、手をつなぐ』だ。24歳にして数々の映画賞に輝く広瀬だが、意外にも純然たるラブストーリーというのは少なく、連ドラにおいては初めてと言っていいだろう。また、相手役の永瀬廉も本格ラブストーリーは初挑戦。

本作は、婚約者を追って上京した浅葱空豆(広瀬)と、音楽家を目指す海野音(永瀬)が出会い、ひとつ屋根の下で暮らしながら、それぞれの夢を追う青春ラブストーリーと銘打たれている。くすぶりっぱなしの音が、空豆との関わりを通じて、あきらめかけていた夢ともう一度向き合う。そんな普遍的なストーリーを、どれだけ令和の空気感を汲み取って描けるかが、ヒットの分水嶺。

20代の男女のラブストーリーと言えば、『花束みたいな恋をした』が記憶に新しい。以降も、『明け方の若者たち』、『ちょっと思い出しただけ』などが続いているが、これらのキーワードは“エモさ”だろう。
この言語化不可能な感覚をしっかりと作品に染みわたらせることができれば、広瀬×永瀬のファン層であるZ世代を中心に、ノスタルジーに浸りたいM2/F2層まで爆発的な共感を呼ぶことができるはずだ。

そういう意味でも鍵を握るのは、脚本家の北川悦吏子。『ロングバケーション』(フジテレビ系)、『愛していると言ってくれ』(TBS系)などで一世を風靡した“恋愛ドラマの女王”がどこまで令和の若者の機微に迫れるか。あるいは、時代性を超越し、とことん北川節を貫くのかに注目だ。

北川作品では2010年代でも『月に祈るピエロ』(CBC)など秀作もあり、ハマれば爆発力は高い。今の北川だから描ける透明感のあるラブストーリーになれば、記録にも記憶にも残るドラマになりそうだ。

脚本家・安達が魅せる関係性の描き方に注目。『100万回言えばよかった』

本作の魅力は、井上真央×佐藤健×松山ケンイチという実力派キャストによるトライアングルだ。

幼なじみの相馬悠依(井上)と鳥野直木(佐藤)。大人になって再会した2人はお互いを運命の相手だと確信するが、その矢先、直木は命を落としてしまう。悲しみに暮れる悠依と、自らが死んだことを知らず現世をさまよう直木、そしてなぜか幽霊の直木が見えてしまう刑事の魚住譲(松山)。この不思議な三者の関係がどう発展していくかが、本作の大きな見どころとなる。

『ゴースト/ニューヨークの幻』を筆頭に、死んだ男性が幽霊となって愛する女性の前に現れるのは、ラブストーリーの定番。死者との交流という意味では『黄泉がえり』や『ツナグ』もこれらの系譜に位置する作品と言えるだろう。
あざとくなりすぎず、さりげない伏線やモチーフで大切な人との失った時間を呼び起こすことができれば、視聴者も気持ちのいい涙を流すことができそうだ。

脚本は、安達奈緒子。その脚本の魅力を語るとするなら、関係性の描き方の美しさだ。『G線上のあなたと私』(TBS系)では小暮也映子(波瑠)と加瀬理人(中川大志)のじれったい恋模様が視聴者の応援欲求を誘った。
その進化版が、『おかえりモネ』(NHK総合)。永浦百音(清原果耶)と菅波光太朗(坂口健太郎)が紡ぐ中学生のような初々しい恋は、“俺たちの菅波”フィーバーを巻き起こした。

人が人を想う。そのシンプルな心の動きを丁寧に描きながらも、どこかポップさがあるから、見守っている視聴者もつい微笑ましい気持ちになる。ヒューマン性とエンタメ性を兼備したラブストーリーを描ける作家だと言えるだろう。

満を持して放つオリジナル作品で、安達がどんなラブストーリーを描くのか。当たれば、再び関連ワードの数々が、タイムライン上を独占するに違いない。

文/横川良明