素材を主役にした料理たち

レストランもまた、解放的で気持ちのいい空間である。スペースの3分の2がテラスという作りで、そこをぐるりと草木が囲み、まるで林の中にいるようなのだ。ホテルを見守るようにそびえる大きな欅、松やスノーインサマー、アガベなどさまざまな種類の草木が互いを引き立て合い、調和している。

春になれば藤棚が色づき、夏になれば百日紅が咲く。これからホテルと共にこの草木が育ち繁っていくと思うと楽しみで、勝手に親戚のおばさんのような心持ちになったりもする。室内もテラスも装飾はあっさりとシンプルで、だからこそ植物が生き生きと見え、潮風の香りさえインテリアの一部になる。

由比ヶ浜の潮風と波音に解放されるバードホテルで味わう、素材が活きる美味_3

料理は系列店のガーデンハウスと同じノーザンカルフォルニア。パスタもあれば、いろいろな種類のサラダもあるし、炭火焼きもある。どれも素材を主役にした料理だ。
朝食、ランチ、ティータイム、夕食といろいろな使い方が可能で、それぞれに私のおすすめのメニューがある。
朝食ではぜひ、9種のベジタブルデリプレートに添えてあるフムスを味わってみて欲しい。フムスは自分でも作ることもあるしメニューにあればたいてい頼むので、よく食べるけれど、ここのは抜群に濃厚。聞いてみたところ、スパイスを使い過ぎず(私がやりがち…)、ひよこ豆本来の甘さや旨みを生かすように調理されているそう。

ランチなら貝の出汁が効いたペスカトーレはいかがだろうか。ムール貝、蛤、ホタテ貝がたっぷり使われた、見た目も味覚もはなやかな一皿である。

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見た目も味覚もはなやかなペスカトーレをランチに。右手前がハツパッチョ

コーヒー好きならティータイムにはエスプレッソがイチオシ。これもまた印象的な一品、というか、かなり攻めたコーヒーなのだ。初めて口にした際、私には醍醐味がわからなかった。隠し味に塩でも入っていたりして、と思うほど強い味で、正直なところおいしいとは思えなかった。クセのあるコーヒーは好きなはずなのに。でも、あの強烈な味わいがずっと心に残っていた。正体を知りたいと思わせるような味だった。次に口にした時はゆっくりと注意深く舌に乗せた。すると、じわっとコーヒー豆の果実味が広がって、ああこれなんだと合点がいった。

ディナーは炭火焼きがメインで仔羊とフライドポテト辺りがおすすめだけれど、ホルモンが好きなら前菜にハツパッチョを試すべき。低温調理した牛の心臓を西洋ワサビやペコリーノチーズで味わう。あえて厚めにカットしてあるのでコリコリした感触が残っていて、味も食感もおもしろい。
もちろんこれらは私の好みなので、反論は認めます。

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オレンジやドライフルーツも入ったケールのサラダ

さて、こちらのレストランはテラス席なら犬連れはOKだが、犬と一緒に泊まれる客室もある。床がフローリングで、頼めばゲージが用意される205号室がそれだ。シャワーがあるのはこの205と201のみ。宿泊客は1階の共同の浴室を利用できる。チェックイン&アウトはパネルでも対面でも可能。

過剰な装飾が野暮に思える空間である。

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ペットもOKのテラス席
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写真・文/甘糟りり子

【お知らせ】
甘糟りり子&松島倫明トークイベント「鎌倉の暮らし、鎌倉の味覚」
12月17日(土) 17:00-18:30 @湘南 蔦屋書店1号館1階


鎌倉育ちで素敵な鎌倉ライフを発信している作家・甘糟りり子さん。
そして同じく鎌倉在住、日本版「WIRED」編集長・松島倫明さん。
日頃から親交のあるふたりが、鎌倉暮らしの愉しみや知られざる名店の逸品、美味の数々について話します。
鎌倉でのワークスタイルやお買い物事情など、かなりディープなトークをご期待ください!

書籍付きでお申込みいただいたお客様には、トーク終了後、甘糟さんよりサインをプレゼント! また、購入いただいた書籍には特典が付きます(予定)。

※1号館1階 湘南 蔦屋書店で 12月7日(水)から開催の「甘糟りり子が選ぶ稲村ヶ崎商店」フェア関連イベントです。
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鎌倉だから、おいしい。
甘糟 りり子
由比ヶ浜の潮風と波音に解放されるバードホテルで味わう、素材が活きる美味_7
2020年4月3日発売
1,650円(税込)
四六判/192ページ
ISBN:978-4-08-788037-3
この本を手にとってくださって、ありがとう。 でも、もし、あなたが鎌倉の飲食店のガイドブックを探しているのなら、 ごめんなさい。これは、そういう本ではありません。(著者まえがきより抜粋) 幼少期から鎌倉で育ち、今なお住み続ける著者が、愛し、慈しみ、ともに過ごしてきたともいえる、鎌倉の珠玉の美味を語るエッセイ集。 お屋敷街に佇む未来の老舗(イチリンハナレ)、自営の畑を持つ野菜のビーン・トゥー・バー(オステリア・ジョイア)、カレーもいいけれど私はビーフサラダ(珊瑚礁 本店)、今はなき丸山亭の流れをくむ一軒(ブラッスリー・シェ・アキ)、かつての鎌倉文士に想いを馳せながら(天ぷら ひろみ)……ガイドブックやグルメサイトでは絶対にわからない、鎌倉育ちだから知っているおいしさと魅力に出会える1冊。 素材が豪華ならいいというものでもない、店の内装もまた味わいの一端を担うもの、いいバーとバーテンダーに出会う喜び……著者自身の思い出や実体験とともに語られる鎌倉のおいしいものたちは、自然と「いい店」「いい味」ってこういうことなんだな、という読後感をくれる。 版画のように精緻なタッチで描かれた阿部伸二によるイラストも美しく、まさに読んでおいしい、これまでなかった大人のための鎌倉グルメエッセイ。
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