憧れの自販機食
自販機が通路にズラリと並ぶ「中古タイヤ市場 相模原店」は、小田急線の最寄り駅からバスで30分ほどの場所にあった。店名通り、そこは本業がタイヤ販売で、自販機はタイヤ交換待ち客のために設置されたということだ。
私が訪れたのは日曜日のお昼前。お客のほとんどは、タイヤではなく自販機のほうに集まっていた。それだけ懐かしい自販機に魅了される人は多いのだろう。
昔、私が最も憧れたのは、食べ物の自販機だった。食べ物の自販機は、駄菓子屋に置かれていることはまずない。これを見たのは、家族で行ったドライブ旅行の休憩で止まったドライブインやパーキングだった。
店頭で売っているはずの食べ物が、機械から自動で出てくる。それは不思議なマジックにも見え、手の届く未来的なファンタジーだった。
幼い私はそのファンタジックな光景に胸踊らせ、ぜひとも自販機のボタンを押して、出てくるものを食べてみたかった。しかし、両親が買ってくれたことはなかった。
今なら両親の気持ちがわかる。
せっかくの旅行先で自販機食を選ぶおとなはいない。同じお金を払うなら、お店で食べたいだろう。
あの時代の心残りを今日、叶えよう。
両替機で1000円札を100円玉に変え、食べ物の自販機に早足で向かった。