懐かしい自販機の現実
しかし日曜の昼前で、すでにかなりの人が訪れており、売り切れているものも多かった。よく考えれば当然だ。筐体サイズからして大した在庫が入るとは思えない。お目当てのものを確実にゲットするには、もっと早い時間か、平日を狙う必要があるようだ。
売り切れのポップコーン自販機の前で駄々をこねていた男の子がおり、心から同情した。うどんやそば、お茶漬けまで買える自販機もあったが、同様に売り切れが多かった。ワンカップ酒が買える自販機は、中身がノンアルコール商品に入れ替えられていた。
まだ買えるものの中から、「コンビーフサンド」を選んだ。この自販機もかなり年季が入っており、50歳に手が届こうという私と同じ頃に生まれたらしい。元は他所で稼働していたものを、自販機コレクターのここのオーナーによって引き継がれたという。
硬貨を入れてボタンを押すと"トースト中"というランプが点灯して40秒間温められてから出てくる。この待ち時間もワクワクして楽しかった。あの頃味わえていたら、どんな思い出になっていたのだろうか。
コンビーフサンドはかなりコゲているように見えたものの、アツアツで、馬鹿にできない美味しさだった。このコンビーフサンドは、自販機の裏手にある調理場で一つずつ手作りされていると聞き、なるほどと納得した。
パンはふにゃふにゃだし、具材がたっぷりというわけでもないし、高価なごちそうでもないけれど、こどもにも理解できる優しい味だ。家族でいくデイキャンプで作ってもらったホットサンドがこんな味だった。
そのとき一緒に飲んだ、ジュースのHI-Cが、瓶入りでここにも売っていた。食事のときにジュースを飲めるのは、家族で休日旅行をしたときだけだった。
ひと噛みしたホットサンドをHI-Cで流し込むと、幼い頃の休日の光景が甦った。
レジャーシートの上で向き合って座る実家の家族。まだ私より背の低い妹と弟、私より大きかった父、そして今は亡き母。
時が経った今、もしも彼らとここに来られたとしたら、どういう会話が交わせるだろうか。
瞬きの夢想の後には砂埃の舞う中古タイヤ市場の景色が戻ったが、懐かしい自販機のくれたささやかな食事で、心が少し温かくなった。