北区十番にある『十條湯』。何がすごいって、『喫茶のみのご利用歓迎』という看板を掲げた、レトロなムード漂う本格的な喫茶…その名も、『喫茶深海』を併設していることだ。

おしゃれな壁画やド派手な天井画。異業種とのコラボで、落語会や、ヨガ教室などを開くなど、新しいスタイルの情報発信基地として再注目を集めている銭湯だが、本格的な喫茶店を持っているのは、唯一、ここだけ。地域のコミュティーの場として、若者の間で密かなブームになっている。

スーパー銭湯ブームに押され、ギリギリまで追い詰められたという『十條湯』が、一体どうやってその危機を乗り越えたのか!? ユニークな発想はどこから生まれたのか? 店長の湊研雄さんと、喫茶を担当する、れいなさんにお話を伺いながら、『十條湯』のエモさの秘密に迫る。

令和に光る昭和の魅力がZ世代に大人気! レトロ喫茶店を併設した東京都北区「十條湯」_1
北区十番にある『十條湯』。JR十条駅から徒歩5分ほど

廃業の危機と、銭湯マニアとの出会い

十條湯は、JR十条北口を出て5分。駅前から伸びる十条銀座商店街の先にある。創業は、昭和23年。二代目社長、横山宗春さんに代替わりしたのをきっかっけに、昭和46年に建替え。当時、都内の銭湯数は2400件を超えており、ピーク時の昭和43年(2687件)から見ると、やや減少傾向にあったとはいえ、幅広い年代の人に愛される、憩いの場だった。

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陽の光がよく入る、開放感のある脱衣所

ところが銭湯数は、年々右肩下がりで減少傾向、再改装した平成元年には2000件を割り込み、経営も徐々に悪化。社長と女将の体調不良も重なり、『十條湯』は、廃業の危機に追い込まれた。
そんな『十條湯』に、手を差し伸べたのが、お客として通っていた湊研雄さん。何を隠そう、この研雄さんは、“日本から銭湯を消さない”をモットーに、銭湯継業の集団『ゆとなみ社』を率いる湊三次郎氏の弟で、自らも、埼玉県川口市にある銭湯『喜楽湯』を経営していたという、生粋の銭湯マニアなのだ。

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十條湯店長の湊研雄さんと、喫茶店の名前の由来にもなった女湯タイル絵

当初は、少しでも役に立てれば…という思いから、浴室などの清掃を手伝っていたが、いよいよ危ないという話を聞き、兄の三次郎さんと相談のうえ。2021年9月から、正式に出向社員として『十條湯』の経営に加わった。

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立派なタイル絵が特徴の男湯浴室
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浴室にはカニ型の排水溝