伊坂幸太郎さんからいただいたアドバイス
――Twitterでの連載も初めての試みで、依頼する難しさも?
宮川 最初はお見せできる具体例もないので、デザイナーに作ってもらったプロトタイプなどをお見せしながら、できるだけ丁寧に打ち合わせをさせていただきました。
――最初に引き受けてくださる作家さんも重要でしょうが、どなたから……。
宮川 伊坂幸太郎さんです。出版社時代に担当させていただいていて。ただ、私もこういった依頼をするのは初めてですし、それまでは作家さんの書きたいテーマを起点にすることが多かったので、最初は「モノ×物語」という大きなくくりだけを用意していったんです。先ほども言ったように、あまりテーマを狭めすぎないほうがいいのかなという思いがあり。
ただ、さすが伊坂さんなのですが、「もう少し設定があったほうが面白い」と逆に提案してくださって。その後、やりとりの中で「人から人にモノが渡る」というメルカリらしいテーマ設定に落とし込まれていきました。
――伊坂さんらしさが満載の短編に仕上がっています。
宮川 全方向にボールを投げてくださった感じですね。ファンの方も喜んでくれそうな“伊坂作品”を体現していただき、さらにTwitter連載として読むことも考慮してくださったんです。
Twitter上では、小説を画像データとして本のページのようにレイアウトし、その画像を1時間ごとに4枚ずつ、ツリーにして配信するという設計にしていました。1回の配信が短い分量でもワクワクし、物語の力で1時間後に続きを読みたいと思ってもらいたい――。打ち合わせでは、そんな話をしましたね。今考えると無茶な注文をしているのですが(笑)。
伊坂さんからいただいた原稿は、途切れても引きがあるように異世界と現実世界を行き来する構成になっていたり、最後の配信で明らかになる謎があったりと、Twitterでこそ生きる仕掛けがたくさん盛り込まれていました。Twitter連載という形式を考えた構成で、読者にも企画にも向き合って書いてくださった。しかもすごく面白くて……感動しました。
21人の作家が紡ぐ「モノ×物語」
――最初に伊坂さんにお受けいただいたのは、次の作家さんに繋がる意味でも大きかったのでは?
宮川 そうですね。「Twitterでベストセラー作家の新作が読める」ことを打ち出していたので、伊坂さんにお引き受けいただくことで、このプロジェクトのカラーが伝わる部分はあると思っていました。その後、本当に素晴らしい書き手の皆さんがコンセプトを面白がって引き受けてくださって、嬉しかったですね。
せっかく「Twitter×小説」という異色のコラボなので、様々な業界で活躍されている作家に入っていただくと、さらに広がりが生まれます。岩井俊二さん、尾崎世界観さん、藤崎彩織さん、水野良樹さんなどにもお声をかけさせていただきました。
――多方面の表現者に依頼ができたことは、楽しかったのでは。
宮川 そうなんです。あと出版社にいると、既に担当編集がついている書き手の方とは仕事をする機会があまりないのですが、今回は気にせず依頼できたのも新鮮で、ヤッターという感じでした(笑)。
「モノとの出会いと別れ」というテーマは、アイデアが広がるお題だと思いますし、どこに着眼するかは作家の世界観や作風と直結します。この作家が「どんなモノ」を選ぶのか、どんな作品が出てくるのかと期待感を抱かせる方ばかりにお願いできて、原稿を待っている間やいただいた瞬間は本当に幸せでした。
――その中でも「こうきたか!」という設定も?
宮川 それは結果的に、すべての作品に対して感じましたね。まず「モノ」のセレクトから個性を感じましたし、ひねりが効いていて。
吉田修一さんの「仏像」なんかは想像の斜め上でした。三浦しをんさんは個人的に好きな作品に犬が話者の「春太の毎日」という短編があるのですが、人じゃないものに語らせる手腕やユーモアが素晴らしくて……だから今回、1行目から主人公の「うさぎのぬいぐるみ」が「俺は〜」と話し出したのを読んだ時は、嬉しくてガッツポーズでしたね。
――筒井康隆さんの作品は、並べて読むと個性が際立っている印象でした。
宮川 「これがTwitterのタイムラインに流れてきたら二度見するだろうな」と思いました(笑)。でも、その違和感こそこの企画の醍醐味(だいごみ)だなとも感じました。
取材・文/明知真理子 撮影/五十嵐和博