「ウリ(売春)すればするほど、記憶が薄れて楽になる」
女子少年院などにいる売春で逮捕された女性たちに共通するのは、家庭環境の劣悪さだ。
親からの暴力、ネグレクト、親の再婚などによって、家庭が居心地の悪い空間になった時、女性たちはそこから逃れるために家出をする。いわば、自分の身を守るために家を飛び出すのだ。
だが、家出をした10代の女性たちが直面する現実は過酷だ。悪い大人たちがあの手この手で欲望の渦へと引きずり込もうとするし、彼女たちも生きていくために自らの性を切り売りしなければならないこともある。家出少女と売春が密接な関係にあるのはそのためだ。
ただし、これはあくまで環境的な要因だ。彼女たち1人ひとりの話を聞くと、それとは別に内面的な要因がある。それこそが、彼女たちの胸に刻まれた、性被害のトラウマなのである。
よく見られるのが、精神医学の分野で「トラウマの再現性」と呼ばれるものだ。
女性が性的虐待や性犯罪に遭うと、トラウマとなって記憶のフラッシュバックに苦しめられたり、「私はけがれてしまった、きたない人間なのだ」と自分を貶めたりするようになる。たえず心の傷と向き合い、自己否定をくり返すことを余儀なくされるのだ。
そんな時、彼女たちの一部は売春の世界に身を投じ、似たような傷つき体験を重ねることで、過去のトラウマを紛らわそうとする。新しい傷を次々とつけていくことで、過去の傷の痛みから目をそらそうとするのだ。
私が少年院で出会った17歳の少女がいた。
彼女は小学生の時から同居していたおじによって毎日のように性的虐待を受けていた。思春期になってそのトラウマから自傷をくり返した末、中学3年で家出をして売春をするようになった。
彼女は次のように語っていた。
「家出する前は、毎日あの男(おじ)のことを思い出して気が狂いそうになってリスカとかしてました。でも、家出してウリ(売春)をすればするほど、あいつの記憶が薄れていったっていうか、なんかどうでもよくなったんです。それは私にとって楽になるってことでした」
毎日何人もの見知らぬ男に犯されることで、おじから受けた性的虐待のトラウマを紛らわそうとしていたのだ。
また、性被害を受けた女性が、覚醒剤などドラッグに手を出し、くり返し性行為を行うケースもある。