必要とされて心が満たされる、私には風俗が天職

たとえば、取材で出会った売春経験のある30代の女性がいる。
彼女は両親と兄の4人家族で育った。彼女の親はギャンブルと浮気にのめり込み、まったく家庭を顧みなかったそうだ。小学6年の時から2年ほど、兄はそのストレスをぶつけるように1歳下の彼女に性的虐待をしたという。

彼女はそのトラウマによって対人恐怖症になり、学校ではいじめに遭った。高校生になった彼女は、逆にその反動で何十人もの男性と性的な関係を持つようになった。人付き合いが苦手でも、セックスをさせれば、男性からやさしくしてもらえることを知ったそうだ。肌を重ねている時だけは安心できた。

高校を卒業した彼女は、自分の性格では会社で働くのは難しいと考え、風俗の世界に入った。彼女はその理由を次のように語った。

「お店(風俗店)で働いてれば、会社での人間関係は必要ないし、毎日何人もの人から『かわいい』『また会いたい』って言ってもらえるじゃないですか。指名もくれるし。なんか、本当に必要とされているなって思えて心が満たされるんです。私には風俗が天職だと思っていました。

今考えれば、寂しいだけだったんだと思います。親からは『ブス』『お前が生きているだけで金がかかるんだ』とか言われつづけて、兄からは毎日のようにレイプされてた。カサカサに乾いていた心を潤してくれたのが、私に会いに来るお客さんだったんです。
それを味わってからは、もう自分の生きる場所はここしかないって思うようになりました」

彼女が風俗をやめたのは、20代の終わりだった。
男性客と恋に落ちたのだが、同棲を始めた途端に相手の態度が急変した。男性は家庭内暴力をはじめ、彼女のカードで借金を重ねた。そして妊娠が発覚した直後に、金目の物をすべて奪って追い出したのだ。
こうなって初めて、彼女は客が自分を性の道具としか見ていなかったことを知ったという。