俳優として、今が一番いい時期だと思う
--映画では、夫にとっての“帰る場所”が、果たして自分の所なのか自問する場面も。尾野さんにとっての帰る場所とは?
私の場合は、夫がいる家と奈良の実家ですね。夫も家族も、絶対に私の帰りを待っていてくれますから。待ってくれる人がいる場所が、帰る場所なのかもしれません。
--デビューして25年。精力的に作品に出演されていますが、これほど長く続けてこられた原動力は?
親が「次、◯◯に出るよ」という報告を楽しみに待ってくれているんですよね。事務所も事務所で、またいい作品を持ってきてくれるんです。いいものを見ちゃうと出演したくなるし、例え悔しい経験をしたとしても「次、見せてやろうじゃないの」みたいな気分になったり。まだ辞めるという方向には、気持ちが向かない。だから続けられている気がします。
--お芝居って、楽しいんですか?
楽しいですよ! なんかね、ハマるときがあるんですよ。例えばカッコつけたセリフとかがあると、「何言ってんだ? 私」みたいに一瞬恥ずかしくなって我に返ることもあるんです。でも、そんなキザなセリフがカチッと自分の中でハマるとすごく気持ちいいし、「カッケー」って思います。それに、「今の芝居は良かった」と褒められるとね、やっぱり嬉しいですしね。
--今回の映画にはありましたか?
夫をビンタするシーンは、気持ちよかったです。ただ、カットがかかった後は叩いたことに対する罪悪感が湧いてきて、すっごく謝りましたけどね。でも、本気でやらせてくれたことはありがたかったです。
--今年の11月で41歳になります。年齢や経験を重ねるごとに、求められる役柄も変化してきたと思います。今の年齢だからこそ感じる、お芝居の面白さは?
独身女性の役もできるし、結婚して子供がいる役もできる。若い役を演じるときも、自分の若い時代を知っているから「なんとなくこんな感じだったな」みたいに思い出すこともできる時期だと思っています。
もちろん、できなくなった役もありますよ。初々しい高校生なんてできないですし。でも、肝っ玉母ちゃんみたいに、無理なくできる役も新しく生まれました。子供たちに「おばさん」って言われる年齢になったし、ある一線を超えたなって感じます(笑)。だから、今が一番いい気がする。きっと、これから年齢を重ねてもずっと、同じことを言ってる気がしますけどね。
『千夜、一夜』(2022) 上映時間:2時間6分/日本
©2022映画『千夜、一夜』製作委員会
北の離島の美しい港町。登美⼦(田中裕子)の夫・諭が突然姿を消してから30年の時が経った。彼はなぜいなくなったのか。⽣きているのかどうか、それすらわからないなか、彼⼥は愛する⼈とのささやかな思い出を抱きしめながら、帰りをずっと待っている。そんな登美⼦のもとに、2年前に失踪した夫・洋司(安藤政信)を探す奈美(尾野真千子)が現れる。彼⼥は前に進むために、夫が「いなくなった理由」を探していた。しばらくして、奈美には新しい恋人ができ、夫との離婚を決意。そんなある⽇、登美⼦は街中で偶然、奈美の夫の洋司を⾒かける……。
10月7日(金)テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほか全国公開
配給:ビターズ・エンド
©2022映画『千夜、一夜』製作委員会
公式サイト
https://bitters.co.jp/senyaichiya/
取材・文/松山梢 撮影/石田壮一 ヘア&メイク/黒田啓蔵(Iris) スタイリスト 関口琴子(ブリュッケ)
尾野真千子
1981年11月4日生まれ、奈良県出身。『萌の朱雀』(1997)で俳優デビュー。主な出演作は『そして父になる』(2013)『きみはいい子』(2015)『ヤクザと家族 The Family』(2021)『茜色に焼かれる』(2021)『ハケンアニメ』(2022)『こちらあみ子』(2022)など。