映画『千夜、一夜』で演じた待つ女
--新作映画『千夜、一夜』(2022)では、2年前に失踪した夫を探す奈美役を演じられました。出演したいと思われた決め手は?
台本を読んだときに、すごく難しい話だなと思ったんです。エンタテインメント作品のように、パッと見てわかる話ではないし、なんなら地味(笑)。でも、そこが魅力でもあったし、やりがいがありそうだなと感じました。
--田中裕子さん演じる登美子も、30年間、失踪した夫を待つ女性として登場します。夫の無事を信じ続ける登美子と、新しい恋人ができ、夫との離婚を考え始める奈美。待つ女ふたりの思いに胸が締め付けられるようでした。
台本を読んでいるときは、奈美がすごく薄情な女に見えたんです。裕子さんが演じられた登美子が正解だと思うし、映画としても美しい。「ずっと待つのが女でしょ」みたいな思いが私にもありました。でも、よくよく考えてみると奈美の選択が一番現実的なんですよね。もし私が同じ状況になっても、奈美の生き方を選ぶかもしれないと思いました。ずっと待ち続けるって、やっぱり辛いから。
--田中裕子さんとの共演はいかがでしたか?
いやあ、怖かったですね(笑)。なんていうのかな、恐怖の怖さとは違うんです。まとっているオーラが、心地いい怖さなんです。今日はどんな裕子さんが見られるんだろう、みたいに、撮影中はいつも楽しみで。ドキドキ、ワクワクする怖さでした。その怖さは、いつか私も持ちたいと思えるものでした。
--普段はどんな方なんですか?
すっごい大女優だけど、雰囲気としては親戚にいそうな感じのチャーミングな方。でも、やっぱり何かすごいものを持っているように見えるんです。内にあるものを全部は見せないというか、裕子さんなりに隠している部分はあると思います。それを少しだけチラリと見せてくれたり、聞かせてくれたりする瞬間もあるし、「あ、ここから立ち入っちゃいけない。違った、違った」となることもある。想像がつかない感じが、すごく魅力的でした。
--尾野さんには、誰かを待った印象的な思い出はありますか?
私はお父さん子だったので、小さい頃はお父さんの帰りが待ち遠しくて仕方がなかったです。仕事に行ったばかりのお父さんを追いかけたら、家の周りで迷子になったことがありました。でもね、それ以外にはあまり待った思い出ってないんです。
もちろん、俳優は“待つのが仕事”って言われるくらいだから、4〜5時間普通に現場で待つことがあるんです。でも、ものすごく寂しがり屋だから、現場に行っていろんな人の邪魔をして遊んでます(笑)。プライベートで誰かと約束をしても、会うのが楽しみすぎちゃって、いつも20〜30分前に現地に着いちゃうんです。だから待つのは結構平気。意外と待てる女かも。