反共と旧統一教会問題
内田 映画が公開されてからの反応はいかがですか?
ヤン 「何か遠い国の自分とは関係無い話」ではなく、地続きと感じてくれている日本人の方が多い印象です。それは夫の荒井の存在がブリッジになってくれている部分もあるかと思います。彼は完成するまで自分がどう撮られているかとか、一切、何も聞かずに任せてくれました。私のこれまでの映画には日本人が登場しなかったのですが、彼が家族になったことで、母にも大きな学びがあったと思います。
ただ、「スープとイデオロギー」をどういう風に受け止めるかは、観る方の自由だと思っています。観た人が想像力を広げて、何かを考えるきっかけになれば嬉しいです。私は自分の主張やメッセージを伝えるために編集することはありません。作品の中では人を描きたいと思っているので、「〇〇問題についての映画」といった風にならないように努めています。
今作も在日についての映画ではなく、うちの母についての映画ですが、そこから母、介護、帰国事業、済州島4・3事件……。観客がそれぞれにドアを開けて迷路に迷い込み、オモニという出口から出て行く。どの入口から入るのかは、見てくれた方が決めればいい。その中でオリジナリティー、普遍性を感じ取るのだと思います。
朝鮮半島と日本の歴史や矛盾が縮図のように詰まっている私の家族が、そういう作品を作るにあたって良き題材だと思いました。この母について見せることによって、見てくれた方が頭の中で旅をしてくれれば嬉しいです。
内田 今起きている自民党と旧統一教会の癒着問題も、もとを辿れば終戦後の朝鮮半島における反共イデオロギーに至り着きます。どうして嫌韓のネトウヨたちが、統一教会を擁護する側に回るのか。この没論理的なふるまいは、日韓の長いねじれた歴史が生み出した奇形的な政治姿勢がもたらしたものです。この歴史を直視しない限り、どうして自民党政権が日本を収奪の対象とする宗教団体と癒着できるのかが理解できない。
日韓関係の闇の部分を学術的に研究している人はいますけれど、国民感情を揺り動かす「強い物語」を日本はまだ作り出すことができないでいる。ヤン監督のようなクリエイターが今後も登場することを切望しています。
構成/木村元彦