大坂は「日本人らしい」から評価されるのか

片言の日本語や「黒人の女の子」のような外見にもかかわらず、大坂がこれまで「日本人」として認められてきたのは、いかにも日本的な名前はもとより、彼女自身も自認する内向的な性格と控えめな言動によるところが大きかった。

このことが顕著だったのが、2018年のセリーナ・ウィリアムズとの全米オープン決勝戦に対する日本での反応である。

興味深いのは、アメリカでは「黒人女性同士の対決」という快挙として注目されていた決勝戦が、日本では大坂の「日本人らしさ」を証明する機会となり、彼女がグランドスラムで初優勝を果たした「日本人」として称賛されるに至った点である。

決勝戦は波乱に満ちた試合となった。第2セットの中盤で、コーチングを受けたとして主審から警告された対戦相手のウィリアムズは、これに抗議してラケットをコートに叩きつけたことでさらに1ポイントを失い、コーチングという主審の判断に反論するなかで暴言があったとみなされ、ついには1ゲームを失うことになったのだ。

男子選手であればルール違反にさえならないような発言で処分されるという不当な扱いを受け、ウィリアムズが調子を崩す一方で、大坂は黙々と試合をこなし、2セット連取で勝利を手にした。

歓声とブーイングが飛び交う異様な雰囲気のなか、表彰式の壇上に立った大坂とウィリアムズに笑顔はなかった。大坂はサンバイザーで顔を隠し、何度も涙を拭った。彼女の肩を抱き、耳元で励ましの言葉をかけたウィリアムズは、インタビュアーの質問に対して、「失礼なことをしたくはないのですが、質問に答えるのではなく、みなさんに言いたいことがあります」と前置きし、聴衆にこう語りかけた。

「彼女は素晴らしいプレーをしました。これは彼女の初のグランドスラムなんです。……この瞬間をできるだけ最高の瞬間にしましょう。ここを乗り越え、称賛に値する人を称えましょう。ブーイングはやめて、みんなで乗り越えましょう。前向きにいきましょう」

そして、歓声が大きくなるなか、「なおみ、おめでとう!」と大坂を祝福した。