戦後から現在までの日本における「ハーフ」の歴史を研究した社会学者の下地ローレンス吉孝は、「国益に資するとみなされたり市場の利益と合致する場合には、ナショナルな言説によって『ハーフ』は賞揚される」(『「混血」と「日本人」』)と指摘する。
2020年の東京五輪開催が決定したのは2013年だが、早くも2015年には、陸上のサニブラウン・ハキームやケンブリッジ飛鳥、野球のオコエ瑠偉、サッカーの鈴木武蔵、バレーボールの宮部藍梨などの活躍がメディアの注目を集めていた。
これらの若手アスリートの活躍を紹介する記事は一様に、「アフリカ系ハーフ」アスリートの「日本人離れした」身体能力を称賛することで彼ら彼女らを「日本人」の境界の外に置きつつ、日本代表となる可能性を論じる文脈においては「日本人」として歓迎した。
機会あるごとに日本、アメリカ、ハイチを代表していると発言してきた大坂は、「日本人」と「外国人」の二分法しかない日本社会の反応に大いに戸惑ったことだろう。
ちょうどテニス界で注目され始めた2016年、『USAトゥデイ』紙(1月18日配信)で、「私が日本に行くと人々は混乱します。私の名前から判断して、黒人の女の子に会うことを予期していないのです」と述べ、「私みたいな人は本当に一人もいない気がします。日本を代表するのはむしろ試練に近い感じです」と心境を語っている。
大坂なおみが「一人の黒人女性」として差別に反対する背景
2020年8月、大坂なおみは黒人差別に反対する「ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動」に連帯を示す声明を発表、その抗議の一環として試合の「棄権」を表明した。しかし、日本ではアスリートによる政治的意見の発信に否定的な反応もあり、その背景にある問題が広く知られているとは言い難い。なぜ、大坂は声を上げなければならなかったのか。世の中の不条理に勇気を持って抗議する女性たちのエピソードを集めた『私たちが声を上げるとき アメリカを変えた10の問い』(集英社新書)から一部抜粋、再構成して紹介する。
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大阪の「日本人らしさ」とは