資金は底を突き、深海採掘の計画は破綻する
消費者は常に、少しでも安くて性能の良い製品を求めている。消費者の厳しい要求にこたえるため、企業は1円でも安い部品を世界中から探し出す努力を続けている。
日本政府は現在、深海の泥に一筋の希望を見出している(ように見える)。小笠原諸島の周辺、水深6000メートルの海底に眠るレアアース泥を掘り起こす計画が進められている。
たしかに、日本の周囲の海の底には、世界中の需要を何百年もまかなえるほどの豊富な資源が眠っていると言われている。
しかし、水深6000メートルという過酷な環境から重たい泥を地上へ引き上げる作業に、一体どれほどの莫大なエネルギーと特殊な機材が必要になるのか想像してみてほしい。光の届かない冷たい海の底から、途方もない水圧に耐えながら泥を吸い上げるのである。
陸地で巨大なショベルカーを使って土を削り取る中国の単純な作業と、荒波に揺られる特殊な船から長い管を海底まで下ろし、深海の泥を吸い上げる日本の高度な作業。どちらのコストが安いかは、小学生でもわかりそうなものだ。
海から苦労して採掘した資源を市場で売れる価格にするため、政府は巨額の補助金を出し続ける仕組みを作るかもしれない。
しかし、補助金とは国民から集められた大切な税金である。果てしなく続く価格差を埋めるために、永遠に税金を投入し続けることは不可能である。いつか必ず国家の資金は底を突き、深海採掘の計画は破綻する。
日本産レアアースを買った企業は負ける
レアアースは、すべてのものづくりの出発点である。出発点の材料が高ければ、完成した自動車や電子機器の価格も跳ね上がる。日本のメーカーが高い国産レアアースを使って製品を作れば、世界のライバル企業との価格競争に負けてしまい、製品は誰にも買ってもらえなくなる。
結局のところ、日本の製造業が厳しい国際競争を生き残るためには、どれほど政治的なリスクがあったとしても、安価な中国産レアアースに依存し続けるしか道はないのである。
高い材料を使って売れない製品を作るくらいなら、安い材料を買って利益を出すほうが、企業として正しい選択である。
政府は、特定の国に資源を依存する危険性を国民に訴え、自国で資源をまかなう重要性を声高に主張する。万が一の事態に備えようとする姿勢は評価できる。しかし、経済の法則は、国家の願いや努力を簡単に打ち砕く。
日本が本来得意としてきた戦い方を見つめ直すべき
絶対にうまくいくはずのない半導体工場への巨額投資よりは、最上流の資源を確保しようとする分、レアアース戦略のほうが少しだけマシな考え方ではある。しかし、マシであるという事実だけで、事業が成功するわけではない。
どれほど美しい計画を立て、どれほど立派な船を深海へ向かわせたとしても、あまりに安い中国製のレアアースを前にしては、なすすべはない。政府の努力は、おそらく無駄に終わるだろう。
国産資源の確保という夢から目を覚まし、現実を受け入れる必要がある。安い材料を世界からしたたかに買い集め、高い技術力で付加価値をつけるという、日本が本来得意としてきた戦い方を見つめ直すべきではないか。
環境規制や人権を度外視した中国の圧倒的低コストに対し、日本の深海採掘は採算性で太刀打ちできない。経済安全保障という幻想に固執し税金を投じるのではなく、材料を賢く調達し技術で勝負する原点に戻るべきだ。
文/小倉健一 写真/shutterstock













