豊漁は漁業と家計にとって追い風になるのか

さらに、近年の海洋環境の変化がイワシの来遊や分布を後押ししている面もある。水産庁は、「我が国近海では、海水温上昇により、魚種分布の変化が広く起きている」と指摘しており、暖水性魚種の北上や回遊経路の変化が各地で確認されている。

イワシ類についても、黒潮の流路や沿岸水温の変化によって、接岸や来遊の偏りにつながる可能性があり、春先の定置網やまき網の漁獲が急増する。2026年春の予報は「駿河湾以東は前年を下回り、伊勢・三河湾以西は前年並〜上回る海域が多い」と示しているのも、こうした海況条件と資源分布の組み合わせを反映したものだろう。

静岡県沼津港の魚市場の「イワシの干物」 (写真/shutterstock)
静岡県沼津港の魚市場の「イワシの干物」 (写真/shutterstock)

この豊漁は、近年の水産業にとって一定の追い風である。農林水産省の2024年漁業・養殖業生産統計では、マイワシは66万6700トンで海面漁業の上位魚種となっており、日本の漁業生産を下支えする存在になっている。

サンマやスルメイカ、サケなどの不振で産地経済が打撃を受ける中、イワシの水揚げ増加は、漁船の操業維持、港湾の取扱量確保、加工場の稼働、流通の回転という面で大きい。鮮魚として安く供給できるため家計には恩恵があり、缶詰、煮干し、丸干し、すり身、さらに魚粉・魚油向け原料としても使えるので、用途の広さも強みだ。

一方で、豊漁がそのまま地域の利益になるとは限らない。魚は獲れすぎると浜値が下がりやすく、選別、冷凍、加工、保管の能力が追いつかなければ「豊漁貧乏」も起こる。実際、この春は小売価格が大きく下がるほど供給が増えており、漁業者側には単価下落の圧力がかかりうる。

しかもイワシは鮮度落ちが早く、短時間で大量処理できる体制が必要だ。近年の水産業では、人手不足や加工場の老朽化が課題になっており、豊漁を利益につなげるには、冷凍・加工・飼料原料化まで含めた受け皿整備が欠かせない。