学級崩壊への不安
西郷 そう。じゃ、紺でもいいですとなって、それで、その先生がだんだんだんだん変わっていくわけ。それまで生徒を投げ飛ばしちゃうような怖い先生が僕といろいろ話し合っていくうちに、確かに筋が通らない校則があるって、だんだんゆるくなって、最後は、じゃ全部なくしましょうって。実はその怖い先生が校則全部なくすって言い出したんだ。僕が言ったんじゃない。
宝上 その先生、本当にどんなふうに心境が変わっていったんでしょう。だってね、最初は本当にバリバリに管理をしていたのに。
西郷 それね、たまたま僕がその先生のお姉ちゃんや本人を中学生の時から知っているから。そういう関係性があったからだよ。
宝上 信頼関係。
西郷 そう。ずーっと知っているから。さっき話した家庭訪問と同じで、家族ぐるみで知っているんだよ。それでの信頼関係もあった。でも、その先生が偉いのは、校則の代わりに「心得」というものを作ったんだよ。校則は全部なくすけど、この三つは心得として残したいんですって彼が作ってきた。
それが、
1「礼儀を大切にする」、
2「出会いを大切にする」、
3「自分を大切にする」というもの。
宝上 学級崩壊への不安というか。いつか生徒のみんなが言うこと聞いてくれなくなるんじゃないか、それが怖いという話を他の先生方から聞く時があって。私も何かその気持ちは分からんでもないというか、そうやって2年目とかは、どきどきしながらやっていた気がするんです。
西郷 それ、よくそういう人いるね。子育てでもそう思っている人がいる。自分の子どもを育てていて怖い、いつ不良になっちゃうんじゃないか、いつ何か悪いことするんじゃないかって。同じだろうね。
でも、そもそも自分が子どもだったり、生徒だった時に、先生の言うことを仰ぎ見て聞いた? 僕なんか聞いたこともなかったな。むしろ先生の世話をしてあげなきゃと思っていた。同じように僕が教員になってみたら、僕よりずっと優秀な生徒がいる。頭はいいわ、人格的にも僕より優れている子が。そんな優秀な生徒が僕の言うことを聞くわけない。
宝上 それと通じるんですけど、私、中1から中3までの各担任を初めて持った時に、だんだん、あ、子どものことを頼りにすればいいんだと思うようになったんですよ。子どもたちって助けてくれるんだなと。
私は、やんちゃな子たちを前に基本、日々奮闘をしているんです。クラスの他の子たちはその私の姿ごと見てくれていて、やんちゃな子たちを排除するわけではなく、子ども同士の関係性の中で、結びつき合って、認め合って、結果、クラスでの結びつきによって、私の奮闘が減っていくといった形で。
西郷 僕ね、もう何しろ教室に行くのが楽しくて、言うことを聞くとか、そんなこと考えたこともない。聞かないのが当たり前で、別に聞かなくても子どもたちのいる教室に行く自分が楽しいんだもん。人間なんだから、嫌な人の言うことなんか聞くわけない。自分が楽しいというのが優先で、もうそれだけなんだよ。
宝上 先生、やっぱり自然体なんじゃないですか。
西郷 そうだね。僕は小さい頃は、本を読んだり機械をいじるのが好きで、だいたい一人でいることが多かった。だから人と話をしたり人の面倒を見るとか、そういう経験ってないんだよ。それが教師になってできるようになったのが単純にうれしい。
宝上 特に生徒との関係とかで上手くいかなかったことってありますか。
西郷 気が合わない。理由なく気が合わない。それはあるよ。
宝上 私は何かなせばなるみたいな、どこかで傲慢なところがたぶんあって、生徒全員と対話できるようになりたいと思っていました。
西郷 それは理想だけど、無理だと思う。そこも自然体でいいと思う。
宝上 それは生徒に対してだけでなく、教師同士の関係でも同じような感じですか。職場なんかでどうしても合わないって人間関係があって、人間関係で結構左右されるところがあるじゃないですか。生徒に対していかに自然体でいられるかが大事で、信念を貫いていきたいと思うけれども、それをさせない空気、同調圧力がある。行く手を阻まれる。
そういう人がいた場合に西郷先生はどういうふうにそれに対処されてきたのか、うかがいたいです。
西郷 人間の面白いところだけどさ。評判の悪い先生が異動してきて、僕も最初、「何だいこの先生は!」と思ったりするんだけど、心を割っていろいろ話し合ったり、一緒に仕事している間に、実はすごくいい先生だったというケースがよくあります。逆に最初は、人当たりが良くて、いい先生だと思っていた人が実はとんでもない人だったりする。だから、そこは見た目や前任校の評価だけで決めない。
でもやはり問題があって、とことん話し合って、それでも何も変わらないという人は環境を変えてもらう。具体的な行動としては、僕がもうあきらめた人は異動してもらう。それは僕の教育方針には合わないから。もっと自分に合った場所に移って活躍してくださいという言い方で励ましながら異動してもらう。
構成/木村元彦














