撤退すれば敗北の烙印を押され、攻撃を激化させれば戦争犯罪のリスク

しかし民間インフラを爆撃し、電力施設や橋梁を破壊すれば、国際法違反の戦争犯罪として世界中から糾弾される。同盟国でさえ距離を置き始める。軍事力を際限なく行使する選択肢は完全に封じられている。

さらにイラン側は強靭な忍耐力を見せた。制裁や空爆を受けても体制崩壊の兆しは見えず、なかなか海峡封鎖を解く要求には応じなかった。

時間が経過するほど、ガソリン価格高騰によるアメリカ市民の不満が蓄積していく。戦争の継続は国内経済を圧迫し、有権者の怒りは確実に政権へと向かう。

撤退すれば敗北の烙印を押され、攻撃を激化させれば戦争犯罪のリスクと戦火拡大という破滅的な結果を招く。どちらに転んでも歴史的な汚点となる危険性が高い。政治的遺産を築くはずだった軍事作戦が、今や首を真綿で絞める足枷となっているのである。

トランプ支持層であるMAGAの分裂、支持離れも指摘されている
トランプ支持層であるMAGAの分裂、支持離れも指摘されている

強硬な言葉を連発し、方針を揺れ動かしているのは、打開策を見出せない焦りと恐怖の裏返しに他ならない。出口のない迷路の中で時間を空費し、威信を削り続けている。事態の深刻さは、トップが現実から目を背けている点にある。

CNN「戦争を主導する人物が詳細について十分に把握していない」

CNNは「Trump has crafted his own alternate reality on the Iran war」(3月17日配信)において、最高司令官の姿勢を痛烈に批判した。

「イラン戦争の戦略的・道義的賢明さについてどう思うにせよ、トランプ大統領のコメントが混乱し、一貫性がなく矛盾していることは否定できない。戦争を主導する人物が詳細について十分に把握しておらず、興味もないように見えることが多い」

現場の兵士たちが命の危険に晒され、世界経済が危機的な状況に陥っているにもかかわらず、指導者は具体的な戦略を描こうとしなかった。結果、思いつきの言葉を繰り返し、強がりを見せるだけのパフォーマンスが続くこととなった。

「弱気は見せられない、誇るべき戦果も挙げられない」という板挟みの状況は、指導者の資質にとどまらず、国家戦略の不在がもたらす悲劇である。武力を誇示するだけでは平和は構築できず、行き当たりばったりの発言は同盟国の信頼も損なう。一貫性のない戦争指導は深刻な遺産を後世に残す。敵国の核開発を温存させ、世界経済を不安定化させ、中東に深い憎悪を植え付ける。

権力を誇示する言葉は、事態をコントロールできていない無力さの証明に過ぎない。言葉が軽くなるほど戦場の命や市場のダメージは重みを増す。停戦の期限は2週間。ヨーヨーの糸が絡まり誰の手にも負えなくなる前に、冷酷な現実を直視した再構築が求められている。

文/小倉健一