「僕自身に関してはペナルティでもいい。僕らは勝つために来てる」
そんな中、今や“現役ダート世界最強馬”となったフォーエバーヤングなどを管理する“世界のヤハギ”こと矢作芳人調教師は、何故「敢えて」参戦の決断をしたのか。何か線引きのようなものはあったのか。
「(遠征を辞めた陣営については)各々の考え方ですから、それはそれで理解はできます。勧告についても、国民の安全を守らなければいけない立場から、これは当然ですけれども、僕は競馬のプロフェッショナルとして考えました。
まず当然、スタッフに『帰る』という選択肢も明示しましたが、彼らが『なぜ帰らなければいけないのでしょう?』『一切帰る気はない、勝ってから帰ります』と、何回聞いても一貫してそういう答えしかありませんでした。彼らとは毎日何度も連絡を取っていますが、ミサイル警報があってもむしろ競馬場周辺は安全で動じていないんです。
(騎手の)坂井瑠星にも、僕が師匠だから強制的に行けとか、そういうことは言えないわけで。『本当に行くのか?』と何度も聞いて、『行かないという選択肢はない』と彼の答えも同じでした。もちろん、彼が行かない、或いは物理的に行けない、となったときのために、ヨーロッパの一流どころの騎手に打診もしていました。
そして、僕自身に関しては、大事なスタッフ、大事な馬たち、所属騎手がここにいる以上、自分だけが国内で残って待つという選択肢もまたゼロでした」
敢えてやめるという選択をしなかったところには、これまでに培った経験と、入念な情報収集の上に、線引きを行ったと続ける。
「それに関しては、根拠もなく楽観視するわけでなく、ものすごく勉強しました。中東諸国の歴史的・宗教的な背景や、関係性、情勢。それらを踏まえた結論として、少なくともここ(競馬場)が狙われることはないと判断しました。
残るのは強制ではないですし、うちのスタッフもそこを遠慮するような関係性ではありません。現地にいて、一番状況の判っている彼らが、『ヤバいです。帰らせてください』となったら、オーナーにも納得いただいて帰すというのが、僕なりの線引きでした。
ただ、日本のメディアは『危ない』と過剰に報道しすぎだったと思いますよ。それを鵜呑みにしてしまえば、『行くのは危険』となってしまいます。しかし、現地にいたスタッフに聞いていた通り、こちらに来てしまったら何もなくて、これで帰ると言う方がおかしい状況ですから」
「回避」を選んだ馬が多い日本に対して、欧米からは多くの有力馬がむしろ予定通り参戦を選んだ。そこには「プロ意識」の違いがあると矢作調教師は指摘する。
「実際に、欧米の馬は的確な情報を得て、安全だということで、これだけの馬が来ているわけですよね。しかも、日本の馬が減ったことでメンバー的にも楽になったっていう点も踏まえて。
そこは抜け目ないですし、僕から言わせてもらえば、『こんなだから、日本はまだまだ勝てねえんだよ』と。その辺りのプロ意識、勝負師意識がまだまだ日本の競馬界は足りない、甘いなというものを感じます。これは強く言いたい。
いろんな意見、逆風があるのもわかります。その中で、やっぱり後輩である杉山(晴紀)調教師、高柳(大輔)調教師、吉村(圭司)調教師が果敢に挑戦した。特に杉山君と吉村君に関しては後から来て、本当に素晴らしいし、彼らみたいな後輩を心強く思います」
国会でのやり取りについても、矢作調教師の耳に届いている。
「僕自身に関してはペナルティでもいいですよ。僕らは勝つために来てるのですから。チームとして全員の気持ちが、レースに向かっているということですし、やはり非常にプロ意識の高いチームだなと思って、誇りに思っています。僕の仕事は彼らをレースに向けて集中させるということです。あとは日本でも話した通り、きちんと結果を出して無事に帰る、それに尽きます」
取材・文・写真/土屋真光













