NPBに時間稼ぎをさせないためあえて控訴を棄却
「もしも選手会を勝たせれば、NPB側が最高裁に抗告することは目に見えていましたからね。そうなれば、最高裁までいって時間切れです。新球団の参入審査など、間に合わなくなります」
竹内は球界再編問題の本質を掴み、9月3日の金曜日に受けた選手会の抗告に対して休日を返上して土日に出勤を続け、6日と8日には抗告棄却の決定を下すと同時にこの短期間で事態を前進させる決定文を出している。この超スピード審理は一般紙のみならず法律誌でも高い評価を受けている。
NPB側は自分たちが勝ったことで、時間稼ぎの最高裁への抗告はできなくなり、不当労働行為の警告を受けたことで、それまで避けていた団体交渉に向き合わざるを得なくなった。
自身も野球を愛している竹内は当時、選手会が球団合併反対の署名を集めているというニュースを見聞きしており、裁判所に持って来てくれるものと思い込んで待っていた。
「でもその署名がNPBに行ってしまったのでガッカリしたものです」
ちなみに竹内は、生粋の田尾安志(中日、西武、阪神でプレー、後に楽天初代監督)のファンで1982年のセ・リーグ優勝を決める最終戦での田尾の5打席連続敬遠を横浜球場で見ている。
もちろん野球好きだから、選手会に有利な動きをしたわけではない。竹内の思考の源は憲法76条3項「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」にある。
「まず法律ありきではないのです。裁判は良心に基づいて勝たすべき方を勝たせるべきで、その理由をどうするかというのを緻密に法律論として建てることが裁判官としての仕事。だから僕は裁判とは、いい意味で結論が先にあって、その後に判決を出すというのが、逆転しているように見えて 1番正しい裁判ができると思っています」
こうした裁判官の良心に基づかず、保身から事なかれ主義に陥って、過去の類似事案の上級審の判例を検索してそこから判決を導いて「一件落着」、判例主義で処理件数を稼ぐ裁判官を竹内は「上ばかり見ている『ヒラメ裁判官』」と呼称する。それならば、裁判官はAIで良いではないかと言う。
竹内は選手会の申立てが自分の受け持つ高裁に上がってくるのを待っていたという。すでに野球協約の条文も統一契約書も深く読み込んでいる。あとは良心について動くだけだった。
ここで一つの仮定に思い至る。もしも竹内が弁護士任官制度で裁判官になっていなかったら。弁護士出身の裁判官の輩出は日弁連の悲願でもあるが、まだまだその数は少なく、竹内によれば「現役裁判官の数の50分の1」だという。
もしも東京高裁でこの労使交渉の担当が別の裁判官になっていたら、抗告棄却の判決のみが残り、最高裁で時間切れとなっていたのではないか。
球界を激震が襲った2004年は稀代のリーダーシップの持ち主、古田が会長職にあり、彼の申し立てが50分の1の確率で竹内裁判官にあたった。これも野球の神の配剤だったのだろうか。
文/木村元彦













