裁判所が示した一文の重み

裁判官の竹内はお見通しであった。NPBは選手会との対話を拒否し、新規参入(すでに楽天とライブドアが手を上げていた)の球団も認めず、時間切れを狙っていた。

そこへ向けて、「特別委についての地裁の決定は妥当だとしてもNPBが労働組合の交渉に対して向き合わないのは、不当労働行為である。そのことを法律の専門家のコミッショナーが知らないはずがないから、ここからさっさと交渉のテーブルにつきなさい。そうしないと信頼が地に落ちるぞ」と警告を与えたのである。

当時、主任裁判官だった竹内浩史氏
当時、主任裁判官だった竹内浩史氏

確かにNPBが不当労働行為をしたとなればこれ以上の権威の失墜は無い。問題の本質を突いたこの決定文でそれまで鼻を棒で括ったような経営者側の態度が一変した。

選手会の山崎卓也顧問弁護士は「地裁で負けて沈んでいましたが、まさかあそこまで踏み込んだ決定文が高裁から出てくるとは思いもしませんでした。何度も読んでも本質を捉えたすばらしい文章で我々もこれで闘えると気持ちが上がりました」

竹内は知る人ぞ知る弁護士任官裁判官であった。弁護士出身というこの事実が大きかった。この弁護士任官制度は、司法修習を受けてそのまま任官する職業裁判官が社会人経験の希薄さから、ときおり一般的な意識と異なる判決を出すという批判を浴びていたことから生まれた。

竹内は弁護士時代、行政を監視する市民オンブズマンをサポートしたり、公害訴訟や労働運動に対する弾圧事件を手掛けてきた。人望が厚く2001年に最高裁と日弁連の合意によって新推薦制度ができると、中部弁護士会連合会の推薦によって東京高裁の裁判官に任官した。その竹内が弁護士に任官して2年目に手掛けた事案だったのである。

竹内は「裁判とすればシンプルなものでしたよ」と記憶を辿り寄せる。