テンプトラックを活用した音楽作り
2005年3月、樋口真嗣が監督した初の長編映画『ローレライ』が公開された。以降、樋口は『日本沈没』『シン・ウルトラマン』など、スケールの大きな劇場映画を次々と監督している。ここからは、樋口が自身の監督作品でどのように音楽を作り、演出に活かしているかを語ってもらおう。
『ローレライ』の音楽担当は佐藤直紀。『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)で日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞し、その後も『ゴジラ-1.0』(2023)など数々の話題作を手がける、日本を代表する映画音楽作曲家である。しかし、『ローレライ』製作当時は、映画音楽の分野では新人に近かった。
「『ローレライ』では、僕が全部テンプトラック(劇伴の参考として映像に付ける仮の曲)を付け、それに合わせて書いてもらいました。初めてご一緒する佐藤直紀さんに、僕の無茶な希望を叶えてもらう形になりました」
2006年公開の映画『日本沈没』の音楽は岩代太郎。90年代から数々の映画、テレビドラマ等の音楽を手がけ、『レッドクリフ』(2008)などの海外作品にも参加する実力派である。
「『日本沈没』のときも僕が全部テンプトラックを付けました。岩代さんは抵抗があったと思うんですが、出来上がった曲を聴いたら思い切りテンプトラックに寄せてくれていて、申し訳ないことをしたなと思いましたね。
岩代さんはすでに映画音楽の経験が豊富でしたから、打ち合わせでは具体的な曲の話はあまりせず、『主題歌をどこに入れるかを決めて、そこから逆算して音楽の組み立てを考えていく』とおっしゃっていたのが印象に残っています」
2008年に公開された映画『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』は、黒澤明監督の映画『隠し砦の三悪人』(1958)のリメイク版。音楽は佐藤直紀が担当した。
『日本沈没』も1973年公開の同名映画のリメイクである。両作ともオリジナル版は映画音楽の巨匠・佐藤勝が音楽を付けている。新作の音楽を考えるにあたって、旧作の音楽を参考にはしなかったのだろうか?
「むしろ、まったく違う音楽にしたいと思っていました。ただ、旧作の『日本沈没』ではミュージックエフェクトっていう、音楽と効果音の中間のような音がずっと鳴っているのが効果的で、『ああいう曲がほしい』という話はしましたね。
音楽は違うけれど、印象や雰囲気は似せたいと。『隠し砦の三悪人THE LAST PRINCESS』のときも、こういうトーンでいきたいという僕の希望に対して、佐藤直紀さんがいろいろアイデアを出してくれました」
2015年公開の映画『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』は、『ふしぎの海のナディア』で縁のあった鷺巣詩郎が音楽を担当した。この作品では、テンプトラックの使い方を見直したという。そこには、テンプトラックに頼りすぎている自分自身への自責の念もあったようだ。
「テンプトラックを付けるにしても海外の作曲家の曲は避けたほうがよいのかな、と考えるようになりました。そのうちに思いついたのが、本人の曲を使うこと。作曲家も自分の曲なら抵抗なく参考にできるだろうし、本人のなかから出てきた音楽だから、さらに進んだ曲が書けるんじゃないかと思ったんです。
鷺巣さんが音楽を担当したアニメ映画『ベルセルク 黄金時代篇』(2012)などから選んだ曲を映像に当てて、参考にしてもらいました。以降は、本人の曲をテンプトラックにするやり方を続けました」
(後編に続く)
取材・構成/腹巻猫 撮影/落合隆仁












