橋を作ったのは誰か?

私はこの時期、トランプ支持者の気持ち、特になぜ従来の民主党支持者たちもトランプ氏を支持するかについて、往年のフォークソングの名曲『橋を作ったのはこの俺だ』を使って、自分が教鞭をとるいくつかの大学の学生たちに説明してきた。

作詞・作曲はのちにグラミー賞の生涯功労賞受賞した、アメリカを代表するフォークシンガートム・パクストン。日本では高石ともやさんの訳詞と歌で有名になった。おそらく団塊の世代なら、学生運動や労働運動の中で歌った方も多いだろう。

強い腕や強い体で森を切り拓き、橋や道路、そしてこの国を作ってきたのは俺たちだ、自分たちの先祖に偉い人はいない、誰かが命令したからこの国ができたのではない、と歌い上げる。

いま聞けば、男性中心主義ではないか、アメリカの先住民のことはどうなんだといったツッコミどころが満載だが、そのツッコミのPC(ポリティカル・コレクトネス)具合もまた、トランプ支持者にとっては怨嗟の対象なのだろう。

おそらくかつては民主党支持者の集会で歌われていたこの歌が、いまはトランプ支持者の気持ちを代弁するものになっている。逆にいまの民主党支持者からすれば、歌詞の一部は反知性主義にも聞こえるだろう。

この国を作ったのは俺たち(白人男性)だったはずなのに、いまでは偉い政治家や学者たちがいろいろと理屈をつけて、ニューカマーたちの方を優遇している。トランプ氏への支持の広がりの起点はここにあった。

ドナルド・トランプ (写真/Shutterstock)
ドナルド・トランプ (写真/Shutterstock)

そしてその源流には、「寂しさ」がある。取り残されたという感覚。そして「あいつらだけがうまくやっている」という怨嗟。

エレファントカーブが示す先進国中間層の経済的な停滞は、その後、保護主義的な貿易政策や国内産業の重視といった政策指針の根拠として議論されてきた。1990年代以降のグローバリズムこそが、自分たちの停滞の原因だという主張だ。

そしてまさにいま、その議論の方向の通り、トランプ関税の嵐が吹き荒れ世界を大混乱に巻き込んでいる。

経済的な混乱だけで済めば不幸中の幸いだが、よく言われるようにこれが1930年代の再現にならないことを願うばかりだ。

世界有数の工業国になって一等国の仲間入りと浮かれていても、実際には西洋列強に見下される日本人の寂しさが、あるいは第一次世界大戦の戦勝国なのに経済が一向に上向かないイタリア人の取り残された感覚が、そして「ユダヤ人だけがうまくやっている」というドイツ人の怨嗟がファシズムを生んだように。